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どちらかと言えば安っぽい
自分だって衝動的になってこの老人にナギとの顛末を話したじゃないか。そんな負い目みたいなものを感じたテツは、ひとまず老人の話を聞くことにする。
「ふむう。なんだか不思議な話ですねえ」
老人の話をひととおり聞き終わったテツは困惑するしかない。半信半疑のままのテツに、老人はまっさらな二枚のキャンバスを手渡す。黄色味の強いもの、白味の強いものの二枚だ。
「この二枚のキャンバスの力は今言ったとおりだ」
テツは自分に手渡されたまっさらなキャンバスを見つめる。何の変哲もない平凡なキャンバス。どちらかと言えば安っぽい感じさえ漂う。コンクール用の絵を描くためというよりも、絵の練習のために数をこなすときに使うためのキャンバスという感じだ。
「このキャンバスにそんな不思議な力があるなんてウソくさい気がしますが。それにそんな不思議な力をどうやって使えば、私は支配から逃れられるんですか?」
怪訝な顔つきのテツに、老人は不敵な笑みを浮かべる。
「それくらいは自分の頭を使って考えるんじゃな」
それだけを言い残して、老人は夕闇に消えるように去っていった。
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