お嬢さまはどこに?

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お嬢さまはどこに?

 ナギの言葉にテツは首を振る。 「いいえ、お断りいたします。三枚もの肖像画を描いたのですから、もう十分でしょう。これ以上、同じものを描いても……」  テツが断りの言葉を言っている間にもナギの表情はみるみる変わってゆく。自分の思い通りにならない怒りと憤りのこもった表情。 「ねえ、どうして私の絵は私の納得いくように描けないのよ! インコなら絵から飛び出してしまうほど上手く描けたのに!」  ナギは怒りに任せ、そこらのものをテツに投げつける。花を生けた花瓶、ティーポットとティーカップ、インコの鳥籠……。 「お嬢さま、おやめください!」  メイドはナギを羽交い締めにするが、それでも彼女の怒りは収まらない。ついにナギはメイドを振り切ってテツにとびかかる。  今しかない。絵描きはとっさに白味の強いキャンバスをナギに向かって振り下ろす。その瞬間、部屋の中からナギの姿が消えてしまう。静寂の満ちる部屋に二羽のインコが楽しげに鳴く声だけが響く。床に転がるナギの指輪とネックレス。金銀と宝石が細やかな光を振りまく。 「お嬢さまはどこに?」  突然、姿を消したメイドが部屋の中を見まわす。しかし、ナギの姿は部屋のどこにもいない。
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