あなたの記憶、お掃除します

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芽吹(いぶき)まだ寝てるの? 」 「あー。昨日遅くまで勉強してたからな」 「嘘ばっかり。どうせゲームでもしてたんでしょ。お母さんはこれから仕事だから家事くらいはしといてね」 「はいはい、いってらっしゃい」 と言っても母の勤め先は長い廊下を渡った先。 祖父ちゃんが開業した心療内科の跡を継ぎ、母はそこで医師として働いている。 俺はそんなエリート母とは違い、大学受験に失敗し、今やベテラン浪人生だ。 「芽吹、今日は老人会に行ってくるからお昼はこれで済ませてくれるかしら」 孫に甘々の婆ちゃんは俺よりも外出が多い。今の年寄りは若者よりも元気だ。 俺には父はいない。そして祖父ちゃんは数年前にこの世を去った。 さて、仕事を始めますか。 俺はパソコンを開く。 いつものページにアクセスすると沢山の書き込み。 救いたい、そう思える人はいるだろうか…… どいつもこいつも信じてないのか場を荒らしに来ただけのような事ばかり。 今日は収穫はなさそうだ。 書き込みを見るだけで1時間も時間が過ぎてしまう。 世の中には悩みを持った人々が沢山いる。そう思って作ったサイトは鳴かず飛ばず。 最近は書き込みも増えてきたが大半は悩みというより愚痴や人の心を操ろうとする奴らばかり。 仕事で大失敗したからみんなの記憶からこの失敗を消して欲しい 彼氏に浮気されたから彼の記憶からあの女を抹殺して欲しい 妻がいる男性を愛してしまったから彼が記憶喪失になって私の元へくるように仕向けて欲しい だから、俺は本人以外の記憶は何もできないんだって。 と言える訳もなく、書き込みを放置した結果、無法地帯と化していた。 ページを閉じようとした時、新たな書き込みが目に止まった。
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