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もちろんあの時は分かっていなかったが、そこは古本屋ではなく、祖父ちゃんの記憶の倉庫だった。
祖父ちゃんらしい整理整頓された空間で、記憶力がよく、知識量が多すぎたためか、本棚に収まりきれない本は埃まみれで山積みになっていた。
棚の本の背表紙を見ると
時枝との初デート
時枝40歳の誕生日
時枝指輪を無くす
時枝は婆ちゃんの名前だ。
初めての俺は訳もわからず手当たり次第、本を読んでいった。それが記憶が書かれている本だと分かるまでに大分時間を使った。
奥にガラスケースに入った写真付きの本が飾られていた。
時枝との結婚式
枝美誕生
芽吹誕生
その他にもいくつかあるがこれは特別な想い出という事だろうか。
そうだ、俺を叩いた日の記憶、どこだ。暫く探しているとある法則に気がついた。本はそれぞれの人毎に棚で分けられている。
自分の棚を見つけ出す。そこには一際、背表紙の上の部分が潰れたものがあった。
後悔
俺は手に取り読み始めた。俺を叩いたことへの後悔が記されてあった。この周りにきっと理由があるはずだ。棚を探すがそれらしいものはない。積み上げられた本を見ると懐かしい名前が目に止まる。
グリーンレンジャー壊れる
本を開き読み始める。あの頃、俺は戦隊モノにハマり数年前から大切にしていたフィギュアを使い婆ちゃんと遊んでいた。楽しすぎて落としていることも気がつかず、次は追いかけっことはしゃいでいた。祖父ちゃんは新聞を読みながらニコニコ笑って見てくれていた。
俺は逃げる拍子に婆ちゃんを突き飛ばし、不意の攻撃にばあちゃんはよろけて尻餅をついた。その結果、壊してしまったのだ。俺は婆ちゃんに「嫌いだ、婆ちゃんなんて死んじまえ」と言ってしまった。
そうだ、俺が叩かれたのは死ねと言ったからだ。心療内科医だからこそ多くの人の心に触れていて死ねと言う言葉が時には凶器になる事を知っていた。そんな言葉を俺は祖父ちゃんが大好きな婆ちゃんに言ってしまったんだ。
あれは俺が悪かった。ふと下を見ると新しい思い出が蘇った。
グリーンレンジャー見つかる
祖父ちゃんはもう売っていないフィギュアを見つけ出しプレゼントしてくれたんだった。
俺は後悔という本を手に持って見つめながら燃えて無くなればいいのにと思った。その瞬間、本は火に包まれて消えていった。
驚きのあまり自分の手を見るが炎症もなく綺麗な手だった。
埃まみれの2つの本を再び手に持つといきなりはたきが棚の上に現れた。はたきで埃をはらい、棚の空いた隙間にその2つの本を並べた。
俺はこの空間にある埃まみれの本を気が済むまで綺麗にして、本棚やショーケースを綺麗に拭き掃除をした後、元の場所に戻して、扉から外へ出た。
目を開くとそこは病院で、いつの間にか夕方になっており、俺は祖父ちゃんに寄り添って寝ていた。暫くして目覚めた祖父ちゃんに後悔は無いか聞いたところ全くないと豪語していた。そして忘れていた記憶が蘇ったと言った。
あれから祖父ちゃんは死ぬまで楽しい記憶を毎日のように話してくれた。
俺ができた唯一の祖父ちゃん孝行だ。今の俺を見たらどう思うのだろう。
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