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 あいつは私が苦しめて殺してやる。生きたまま皮膚を裂いて、耳を切り落として、爪を剥いでやる。早く泣き喚いて懺悔する姿が見たい。でも今はまだだーー  アメリカ・サウスセントラル。ここはマイノリティの密集地域だ。私は郊外のスーパーで一週間分の食料を買い、夜道をひた歩き自宅へ戻っているところ。  私は一日の中で夜が一番好きだ。界隈の地面に残る血痕や薄汚い浮浪者、散らかったゴミの山が目立たないから。こういった光景はゲットー育ちの者は慣れているのだろう。だけど私は違う。だから生理的嫌悪に苛まれるのだ。  帰宅すると冷蔵庫に食糧をしまいこむわけだが、このリビングも私が来た当初は酷いものだった。乱雑に空き缶や汚れた服、食べかけの何かが散らかり、異臭を放つクソみたいな部屋。まるでゴミだめ。だから私が綺麗にした。ここに住まなければならなかったからだ。  小瓶の栓を開けて喉を潤しソファへ座る。すると寝室の方から「ジア、大丈夫か?」という声。壁を支えに、不安げな眼差しを向けてくるダリルがいた。 「ダリル! ダメでしょ、まだ治ってないのに!」
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