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どうして人間は今を生きるのか
彼方さいど!
照っている太陽から逃げる為に木陰に潜った。
気温はそこまで高くないのだが、一ヶ月間も引き篭っているとどうしても癖が出る。
彼方「光が眩しい……」
蓮「腰が痛てぇ……」
彼方「なーに年寄り臭いこと言ってんの、僕より酷い」
腰を押さえながら歩く蓮。
ついこの間は煎餅を出し緑茶を入れ、着物を着ていた位だ。
“和”と呼ばれる文化を好んでいる。
??「あれっ、彼方と蓮!」
僕と蓮を見付けて駆け寄って来たのは、同業者のユキト。
その後ろの方でセト、翔、カイの順で横に並んでいる。
他の狩人とは親しくしない彼方と蓮だが、このパーティは別である。
分け隔てなく接してくれるので、心を開くのが早かった。
ユキト「何か久し振りだな、二人とも」
彼方 「え?カイ君とユキトはよく遊びに来てたよ?」
カイ「あっ、シーっ!」
ユキト「もう遅いでしょ」
慌ててカイが人差し指で合図したが、既に手遅れだ。
セト「カイ、ユキト?珍しく狩り休もうって言い出すと思ったら二人して出掛けてたのはそのせいだったんだ、へぇー」
口角は上がっているが目は死んでいる。
凍てついた瞳から目を逸らす。
翔「俺らは修行してたんだけどなぁ……大層楽しい時間を過ごしたんだろうなぁ……」
彼方「翔君、翔君、カイ君怯えてるから」
彼方の後ろに隠れているカイ。
身長が他より低く、顔も整っているせいか、男である僕がキュンとしてしまう。
思わず頭を撫でる。
セト「それ、怯えてないよ、蓮」
カイ「俺は彼方と蓮と生活するッ!!」
翔「なーに言ってんの、さっさと帰るよ」
ベリ、と無理矢理彼方から剥がされ、翔に引き摺られて行くカイ。
良いペアである事に間違いはないのだが、心做しか兄弟の様に見えてしまう。
勿論、今は頼り甲斐のある翔は弟ポジションだ。
なんだかんだでカイは面倒見が良く、周りをよく見ている。
先に行ってしまったカイと翔を追い掛けようとするユキトの首根っこを掴むセト。
セト「コラ。バディで離れんのは危ねぇって何回言えば分かんだよ」
ユキト「たくさん。ところでセト、かなれんに何か報・連・相でもあるの?」
セト「略すな。あ、そうそう。二人とも、今日は半日?」
かなれん「そのつもり」
スっ、と真剣な顔に変わったセト。
普段は四人でふざけ合っていたとしても、ここは紛れもない戦地。
一つ誤った行動を取っただけで命を落とす事など日常茶飯事だ。
若いうちから狩人として駆り出されていた者ほど、オンオフの切り替えが出来るのだ。
セト「俺らが探索している時、聞いた事の無い咆哮が聞こえてきたんだ。あまりにも大きくて威圧感のある咆哮だったから、放って置いても不味いと思って、四人でエリアをくまなく探したんだけど………見付からなくって。だから、二人とも気を付けて。ここら辺は大型モンスターは滅多に出ないけど、それでも油断大敵だから」
彼方の脳裏に焼き付いて離れないトラウマがフラッシュバックする。
一瞬だけ歪んだ表情に誰も気が付かない。
ユキト「という訳で、はいっ!これお裾分け!二人で使ってな!」
ニコニコと笑顔を浮かべながら二人の手の上に一つずつ、小さな袋を乗せた。
サァッ、と顔が青ざめていく。
蓮に至っては何とかユキトに返却しようと取っ組み合っている。
彼方「こっ、これ秘薬だよユキト!?幾らすると思ってるの!?」
ユキト「大丈夫大丈夫。それ、貰いもんで余る程貰て。売ってもろくな奴に渡らないし、俺ら四人で使い切れる量でもないしな」
蓮「でも……」
ユキト「まぁまぁ!あって損する事なんかないし、ちっこいし!死ぬよりマシだろ?」
最終的にはユキトの押しに負け、秘薬と呼ばれる物を二つ貰った。
つい最近開発されたその薬は未だ希少で価値が高い。
毒や麻痺、火傷状態は一瞬にして回復し、傷口も塞がるという代物。
上級戦士である先鋭隊に所属している戦士から買い取るか、良い所の薬剤屋で買うしか手に入れる方法は無い。
命懸けで戦っているのだからあるに越したことはないが、それでもタダで貰うのは申し訳ない。
セト「それあげる。代わりに絶対死ぬな。それで良いだろ?」
ハンマーの手入れを仕出しそうなセトが言った。
翡翠の瞳がキラリと輝く。
ユキト「って、ワケ。アイテム持ちきれないかは俺らは一回帰る。せめて俺らがここ戻って来るまでは死なないでな」
セト「んじゃな」
先に行ったカイと翔に追い付くべく走り出した二人。
紺の羽織を風に舞わせ、どんどんその背中は遠ざかる。
蓮は掌にある秘薬を見つめ、諦めた様に溜息を吐いてアイテムポーチにしまった。
もう無理か、と僕もポーチにしまう。
彼方「にしても、ここら辺でも大型モンスターって出現するのかな」
何処か遠くを眺めた。
どこまでも続く果てしない世界。
この空の下には何億人もの狩人が日々狩りをし、今この瞬間も、恐らく誰かが息を引き取っている。
蓮「…さぁ?」
儚く散っていく命など、元より生まれ落ちなければ良かったものを。
どうして、人間は今を生きるのだろうか。
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