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1、二人の少年
真っ白な雪の中に、赤い椿が咲いている。
それはまさに紅一点。
どうしたって山道を通る人間の目を引いた。
「おい、榊。お前またぼーっとしてんぞ」
少し前を行っていた柊が振り返った。
真由にしわを寄せて、あきれたようにこちらを見る。
「ああ。ほら、椿が咲いてるって思って」
「椿? いつものことだろ。それより早くいかねぇと、時間に間に合わねぇぞ」
「わかったよ」
柊は興味なさそうにまた雪道を登り始めた。
俺はため息をついてそのあとに続く。
俺と柊は小さいころからずっと一緒にいる幼馴染だ。
でも性格はまるで真逆。
気が強くて積極的な柊と、慎重に行動したがる俺。
だけどなんでか隣にいるとしっくりくる。
そんなこと本人に言ったことないけど、たぶんあいつもそう思っているはずだ。
「よし、じゃあお前がやれよ」
山の中腹、村の人がほとんど来ないところで俺たちは立ち止った。
朝日がちょうど眼下の湖に映るころに、俺たちは毎日ここへ来る。
「合図して」
俺たちは主語のない会話をすると、とたんに黙って湖の方を向いた。
背中に背負ってきた布袋から大きな巻貝を出して細い方に口をつけ、じっとその時を待つ。
「……いまだ!」
柊の合図とともに俺は息を吸って思いっきり巻貝を鳴らした。
なにか巨大な生き物が雄たけびを上げるような、低い迫力のある音が朝の冷たい空気を震わせる。
俺は静かに巻貝を下ろして、向こうの山から帰ってくるやまびこが耳に届くのを確認した。
そして二人で合わせて深く一礼する。
「これで今日の仕事は終わりだな」
顔を上げて柊は眠そうに俺を見てきた。
「なに言ってんの。これから長老たちと春祭りの打ち合わせだよ。昨日確認したよね。ていうか、計算した?」
「まあな、徹夜でした。だから仕事はもう終わったんだと思ったんだよ。くそねみーな」
柊は黒い髪を手でかき混ぜながらあくびをした。
俺は眉を上げて、
「間に合ったんだ。よく頑張ったね」
「あ? 間に合わねぇと思ったの」
「うん」
「ざけんな。じゃあもし間に合ってなかったらどうしたんだよ」
「そうだなぁ」
俺は来た道を戻りながらしばし上を向いて思案し、
「謝る。とにかく大人たちに頭を下げまくる」
「平謝り戦法かよ。最終手段じゃん」
「わかってないな。誤って許されるなんて子供の特権じゃん。大人は素直に謝る子供にたいしてそこまで追及できないの。子供より立場が上だから、ここでキレたら大人げないってね。単純単純」
「単純って……榊って前からうすうす感じてたけど、結構腹黒いな」
若干引いたように柊がこっちを見てくる。
俺はくすくす笑って、
「そんなことないって。まだいたいけなかわいい少年なんだから」
「さっきの話を聞いて誰もそうは思わねぇよ」
「はは、大げさだな」
山のふもとまで下りてきて、そこから細い小道を通り抜ける。
すると、目の前には見上げるほど高い大きなお社が見えてきた。
だいぶ昔に建てられたもので、雨の神をまつっている神社だ。
今は冬で木々に葉はなく寂しいが、春には青々とした新緑が輝き、色とりどりの花で埋め尽くされる。
雨乞い村の雨乞い神社は、遠い村から人々が訪れてわざわざ愛でに来るほど、その綺麗な自然で有名だった。
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