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「茶菓子がないんだけどー。柊知ってる?」
「ああ、本殿の戸棚の中だろ」
衣の長い袖をひもでくくって作業しやすいようにした格好の柊がまじめな顔で答える。
俺は驚いて、
「なんでそんなところに」
「だってお前言ってたじゃん、神様へ献上されたものなんだからその近くに置いておこうって」
「あれ……そうだっけ」
「そうだよ。おいおい大丈夫か。寝不足の俺より頭が働いてないぞ。会議中、茶でもこぼすんじゃねーの」
「まさか。単に忘れてただけ。じゃ、ありがと」
俺は頭の後ろに手を当ててあはははと笑った。
そんな俺を柊は疑わしそうな表情で見て、すぐに準備に戻っていった。
俺もすぐに本殿に向かって冷たい廊下を小走りでとおり、畳の上に上がって戸棚に近寄った。
戸棚の扉を開けると、中からぎゅうぎゅうに押し込められていたであろうお菓子があふれ出てきた。
今までかなりため込んでいたようだ。
「これ食べても大丈夫なのかな」
俺は首をひねって比較的前の方にあった新しいものを取り出し、それ以外はもとに戻して扉を閉めた。
よっこらしょと立ち上がって、本日の会議場である大部屋に袋を抱えて向かう。
(「神様へ献上されたものなんだからその近くに置いておこう」、か)
その言葉はきっと小さいころ、つまりまだ俺の父親が生きていて神主をしていたころの俺の発言だろう。
あのころは純粋で、ただ一心に父親の背中に憧れを抱いていた。
村の人たちからも「お社の子」と尊敬されて、有頂天になっていた。
(あのころの夢、たしか父親と同じ立派な神主になる、だったかな)
その夢はある意味では叶ったし、またある意味では実現できなかった。
それは今の段階の話ではない。
この先も永遠に叶うことはないだろう。
「信じる」ということは美しく残酷なことなのだ。
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