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あなたをどれだけ想っても、この教室の窓から見える光景が変わる事はありません。
青い空に白い雲、羽を広げて羽ばたく鳥たち、体育館から聞こえるバレー部の掛け声。
一見、それらは青春映画の一コマを切り取ったかのような、なんとまぁ「爽やか」な光景でしょうか。
しかし、ネガティブなフィルターを通してでしか物事を捉える事が出来なくなってしまった私にとって、目の前に広がる光景を「爽やか」などと一言で形容するには、あまりにも現在の心境と懸け離れています。
どこまでも続く青い空に転々とする白い雲がなす術なく流される有り様を見ていると途方も無い虚無感に襲われます。
強風に抗いながら、羽をバタつかせて飛ぶ鳥からは必死さしか感じられず、自由の象徴などと軽々しく例えた誰かにただただ苛立ちを覚えます。
ボロボロに朽ち果てた体育館とバレー部の生き生きとした掛け声は全く噛み合っておらず、その違和感はある種の恐怖を感じさせます。
例えば、あなたに想いを伝える事で私にこびり付いたフィルターを拭い去る事が出来るのであれば、私はそれを実行すべきなのでしょうか。
否、そもそもそのような事が出来ないから、こうも苦しんでいるのです。仮に実行出来たとして、あなたの返事を受け止める余裕など私は持ち合わせておりません。
とは言え、一ヶ月後の卒業式は刻々と迫っています。大学へ行けば、新しい生活は容赦無く押し寄せてくるでしょう。ここでの記憶は少しずつ薄れて、お互いの存在は過去のものとなり、二人の人生は確実に離れていくでしょう。
SNSを通して、あなたの近況を知る事は出来るかもしれません。しかし、それは同じようにフォローしている好きなアイドルやモデルのようにどこか違う世界の生き物の生活を覗いているような感覚で、あなたを近くに感じる事は出来ないはずです。
時間を止める事など出来るはずもなく、いっその事、学校に爆破予告でもしたら、卒業式は延期されて、あなたとここで過ごす時間が少しでも長くなるのではないかと、生徒会長を務めている私がこんな馬鹿げた事を考えているなど、いったい誰が想像出来るでしょうか。
誰もいない放課後の教室の中、そんな途方もない事を考え込んでいると、何という事でしょう。あなたが教室に入ってきたではありませんか。
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