第一部

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 今年も文化祭のシーズンがやって来たか……。机に頬杖をつき、心の中でため息をつくと幸子がやってきた。わいわい、がやがやとざわつく音を聞きながら、窓際に寄りかかった幸子の顔を見上げ、あと一人どうする? と目で合図を送るも返事は無い。机や椅子が床に擦れる音がみんなの気分の昂揚を表しているようだ。無理も無い、文化祭といえば青春の代名詞ともいえるメインイベントだし、今年は高校最期の三年生。みな最期の思い出作りに心躍らせているのだろう。その証拠に教室のあちらこちらに三人一組グループが瞬く間に出来上がっていく。最期の文化祭に何か起こるのではないかとはやる気持ちを抑えられないようだ。いや、そんな風に考えるのはまさに自分がそんな願望を持っているからかもしれない。でも、願望は願望で終わりそうだ。はぁ、高校三年間も無難に――。 「あ、あ、あの」  上ずった声が聞こえた方へ顔を上げると、緊張した面持ちの柳田さんが立っていた。普段あんまり話した事もないのだが、一体何の用だろうか? 「よ、よ、よかったら入れてもらえないっ!?」  耳を疑った。クラスのかわいいランキング上位の柳田さんがわたし達と一緒に? しかし、現に彼女は私の目の前に立っているではないか。事態が上手く飲み込めない、というか動揺してきた。ここは受け入れていいのだろうか? と変に躊躇していたが、嫌がっているように取られてしまってはいけないと思い平静を装った。 「えっ……い、いいですけど……」 
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