第一部

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 自分の机を逆向きにして後の机にくっつけ、幸子が向き合って座った。柳田さんは右の席から椅子を拝借して脇に座った。とりあえず鞄からノートを取り出し机の上に広げ、出し物ねぇ……と頭を捻った。 「あ、チョコバナナなんてよくな~い?」  ノートにチョコバナナと書き記し、視界のはずれでさっちが相槌を打つのを確認する。 「うんうん、クレープとかもあるよ」 「うんうん、クレープもかわいい~」  甘い物の話だとちょっとテンションが上がる。しかし、ここに男子がいたらもっとテンションが上がるんではないだろうか? そんな事を考えながらノートにクレープと記した。その後も幸子と案を上げるも、柳田さんはまったく話しに入ってくる気配が無い。いったいどうしたのだろうか? と、幸子にアイコンタクトを送ると、幸子が柳田さんの方を向いた。 「柳田さんは何か案ある?」  さすが幸子、アイコンタクトを送っただけで伝わるとは。そう思いながら柳田さんの方へ視線を向けると、なんだかぎこちない様子であった。 「えっ!? え、あ、その……わたしも、チョコバナナがいいかな……」  チョコバナナ? と思いつつ、チョコバナナの文字の後にTの字を記した。なんだろう、意外と人見知りなのかな? いつもはニコニコして元気そうなイメージだったんだけどと思った。その後も幸子とちょとちょこ案を出し合ったが、一行に柳田さんが会話に入ってくる気配は無かった。ひょっとしてわたしと同類なのかと思った。 いや、そんな訳無いか、だいたいクラスの中心にいるものね、日の当らない教室の隅っこにいるわたしと同類なわけない、窓際だから日は当ってるけど――。  結局柳田さんはチョコバナナ以外発する事はなく、学級委員のナカジマくんが教壇に上がり皆から案を募った。ナカジマくんは今日もしっかり整髪料で髪を中分けにして整えており、透き通った眼鏡の奥の切れ目が美しかった。発言がうちのグループに回ってくるまでにノートに記されていた案はすべて出てしまい、わたしたちの案は黒板に正の字として記され学級会は終わりを迎えた。今日はこのまま終わりなので、幸子が自分の席に鞄を取りに戻った。柳田さんはまだいる。どうしたのだろう、帰らないのだろうか? そんな風にわたしが不思議そうに柳田さんを見ていると、急に彼女の目がカッと見開かれた。 「春野さん、じ」  春野? と思い訂正した。 「高野ですけど」 
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