祐一・保育士

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 とにかく上に行っていて、子供たちがそろそろ来るから、と、祐一はユキと青井を二階へ追いやった。なにか決定的な言葉を捜したり口にしたりするのが嫌だった。それは、自分たちの欠落についての。  頭は混乱していたけれど、青井の過ちを責めるわけにはいかない自分がいた。  結局は、同じ穴の貉だからだろう。ちょっと立場が違えば、祐一が青井のように、まだ幼なすぎる少女を抱いていたかもしれない。  昔のことを思い出す。母の死体を発見した時の記憶だ。  あの日、いつものように学校から帰って来ると、母親はリビングで血まみれになって死んでいた。一度輪姦されたことのある祐一は、彼女の死因をすぐに覚った。母の衣服だけが、ぐちゃぐちゃになった母から一メートルくらい離れたカーペットの上に、きちんと畳んで置かれていた。その畳み方は母の癖と同じで、つまり母は、自分で服を脱ぎ、それを畳んで置き、輪姦プレイをし、そのはずみに死んだのだろう。  「……自業自得。」  口の中で呟く。いつだってそうやって、祐一は自我を保ってきていた。  自業自得で死んだのだ、俺の母親は。だから可哀想じゃない。可哀想なんて言うな。  玄関のチャイムが鳴る。ドアを開け、子供たちを迎え入れる。それはほとんど機械的な動作で。  自傷と同じだと、安奈に思われていることは知っている。母が殺されたこの通りで、売春婦相手の保育所なんて開いているのは。  でも、たとえ本当に自傷行為だったとしても、この場所には保育所が必要だ。祐一はいつだってそう考えることで自分を正当化していた。  「後藤先生。」  インターフォンから、不意に懐かしい声がした。かつてこの保育所に預けられていた少女の声。  「夕佳ちゃん?」  「渚もいるよ。」  声のトーンは無邪気と言ってもよかった。ついさっきまで青井に抱かれていたとは思えない。その声は、どうやって聞いてもまだ子供のそれだった。  「珍しいね。」  内心の動揺を隠しながら、祐一はドアを開けて制服姿の少女を二人、部屋に招き入れた。こうして卒業生が後藤を訪ねてくることは時々あるが、夕佳も渚も卒園以来ここにやって来るのははじめてのはずだ。  「久しぶりだね。」  辛うじて笑みを作った祐一は、どうしても夕佳に視線が吸い寄せられるのを抑えることができない。  夕佳はそんな祐一の目を見返すと、なにもかもを知る森の中の隠者みたいな表情で、そっと微笑んだ。
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