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 7歳を過ぎてからの成長を、初めて目にする。緩みそうになった口元を、岩永は必死になって隠した。再会を喜んではいけない。招き入れてもいけない。息子の傍を歩くには、罪を重ね過ぎていた。  あくまで『ひろ』として。この世界から息子を追い出す。  溜め息一つで散らばるような、瑣末な罪滅ぼしだった。  岩永の素性は明かせないものの、息子のこれまでを興味なさげに尋ねた。一枚一枚を(めく)る声が震える。一切余裕のない家庭。荒んだ学校生活。妻が亡くなっている事も、そこで初めて知った。  岩永は矢草の財布本体を隠しながら、中身を手探りで確認していく。現金は、2000円。硬貨、574円。キャッシュカード、保険証、何かのポイントカード。次々に指先だけで情報を処理する。視線はあくまで改札口に置いていた。  一人だと仕事としては捗るのかもしれない。ただ、親子二人で個室に籠って戦績に一喜一憂する。その時間が、どうしようもなく好きだった。 「もう、僕は大丈夫ですから」    最後に右耳から入ってきた言葉。無意識に気付かれようとしていたのかもしれない。どこまでもクズだ、と岩永は我ながら思った。  免許証の素材を探り当てると、岩永はそれを駅構内の明かりに照らした。聞いた事のない氏名が印字されている。それでも、息子の目を見れば、どんな奴かは大体想像できた。  矢草淳吾の顔写真が、光を正面から受け止めている。不釣り合いだな、という感想が浮かんだ。不思議と指先に力が籠る。  矢草の免許証は、真っ二つに割れた。  片方は表。もう片方は裏。  戻れない溝となって、岩永の足元に虚しく落ちていった。  fin.
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