perpetrator

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 野口守(のぐちまもる)は駅方面へと歩いていた。全てにおいて平均的で、特筆すべき点が見当たらない。野口は昔から意図的にそうしてきた。人々の生活に溶け込み、瞬間的に現れては、忽然と消える。簡単に言えば、影を薄くしていた。 「今日は豊作の予感だなー」  右耳に付けたイヤホンから声がかかった。野口の50メートル前方を歩いている男からの吉報だった。本名も年齢も分からない。野口側が幾ら自己開示をしようが、素性に関する質問はことごとく躱される。それでも『ひろ』と呼べ、とだけ初めて出会った時に言われた。 「また駅前広場、ですか」  野口はマイク越しに念のため尋ねた。 「そうだよー。あそこは酔っ払いの掃き溜めだからね。簡単に盗れるよー」  ひろの言葉が切れると同時に、前方の小さな背中が揺れ始めた。酒を一滴も飲んでいないにも関わらず、見事な千鳥足だった。これで、駅前広場への入場資格を得たことになる。野口はひろ曰く、「頭での理解が中途半端ー」だったので、いつも通り周囲の監視役に回って彼の技を盗む。  この仕事に手を染め始めて、数週間あまり経つ。  高校を卒業してから、野口は適当に地元の町工場に就職した。昔から手先が器用で、技術職であれば汎用機をいじるだけで金が入ってくる、という甘い考えで動いた。ただ、現実は常に逆を往く。野口の習熟スピードに味を占めた社長は、ひたすらに仕事を野口へと集めた。NC機を含めた工作機械の制御だけに留まらず、製図や事務処理まで押し付ける。深夜残業・休日出勤は当たり前。  野口は心身ともに悲鳴を上げ、ほんの一瞬、母親と同じ景色を見た。
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