【福の神のお使い・4】真似神。

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 独特の頭巾を被り、荷物を担いでたっつけ袴。の若者が二人。  それは一般庶民の着姿ではない。  二人は摂津国の戎宮(えびすのみや)に仕える、神のお使い "えびすかき" だった。 「似合うね。コウタ」 「こんなきれいな着物もらって……」 「えべっさまを伝えるのに、みすぼらしい格好はあかんやろ。福の神やで!」  先輩顔のシマオを見て、コウタも嬉しそうに照れ笑いをした。  居場所のなかったコウタを "えびすかき" に誘ったシマオは、早速連れ立って "えびすかき" としての仕事をする為にいつもの村を目指していた。 「……なあ、この前の武庫山で見た山の神様やねんけどさ……」  シマオはコウタと出会いのきっかけとなった山歩きの際に、山の神という存在に触れた。後になって、その山の神との時間は夢じゃなかったのかと不思議な気持ちになっていた。 「山の神? あの大蛇?」 「いや、大蛇じゃなくて、山の神様」 「……大きなガマの形の岩の事?」 「いやガマでもなくて、白い装束できれいな山の神様……」  二人は黙って見つめ合った。コウタは首を傾げた。 「……白い装束の人、いたっけ? 高野聖も天狗も黒装束やったよね」  シマオはその時気がついた。  コウタにはあの山の神が見えていなかったという事に。 「コウタ。ごめん! 変な事聞いて……」 「おーい! あれー? えべっさまー!」  その時、峠の道祖神の近くから呼ぶ声がした。 「数馬(かずま)や! 今晩世話になる先の子」 「わざわざ迎えに来てくれてんの?」  旅をする際 "えびすかき" は、宿となる家が大概決まっていた。  コウタは "えびすかき" として初めての旅なので、一つ一つが新鮮だ。手を振るシマオの横で、数馬と呼ばれる少年にぺこりと頭を下げた。 「シマオ! あれ?……さっきの "えびすかき" (なん)やってんやろ?」  二人のそばに駆けてきた数馬が首をひねりながらそう言った。 「さっきの "えびすかき" って何?」 「来る途中で、見慣れん感じの子がお社で舞わしてるん見えたからさ」  数馬は村の方を振り返り、確認するように背伸びをして遠くを見ながら言った。 「何を舞わしてたん?」 「……多分えべっさま 」 「は?」  シマオは驚いた。 "えびすかき" は1年に一度、あちらこちらの村や町を訪れる。  戎社に祀られる福の神の姿を刷った新しい "御神影札(おみえふだ)" を配りながら、木偶人形を舞わせる "えびす舞" をその土地に奉納するのが仕事だった。  そしてその担当する村や町は、それぞれの "えびすかき" に割り当てられていた。 「えべっさんが舞ってるん? そんな訳ない」  数馬の村の担当は自分である。シマオは急いでお社を目指した。
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