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途中で村人とすれ違った。
「お。去年来てた子やんな? もう始まってんで、 "えびすかき" 」
遅刻したんか? と笑う村人は、何かが描かれた紙を手にしていた。
「それ! 見せてくれます?」
「ああ、わし急ぎの用事があるから、先にお札もろてな。もう帰るとこなんや」
そう言いながら村人は、手にした紙をシマオに見せた。
「……これがえべっさま……?」
そこには、墨で描かれた神と見られる姿があった。
「すいません、ありがとう!」
そう伝えると、シマオは走ってお社に向かった。
「どういう事?」
「俺が聞きたいわ……!」
後ろを走って付いてくるコウタにそう答えた時、いつものご神木が見えたと同時に歌声が聴こえてきた。
「ちりや ちりりと ちりとぶところを こぎおうせて
おおきなもんじゃ おおきなもんじゃ おおきなもんじゃ
かみさんが おどった おどった」
鳥居の向こうに人垣と、何かを動かして歌っている姿が目に入った。
「あれか……!」
シマオは立ち止まって、肩で息をしながらその姿を見た。
「おきはたいりょう おかはまんさく
つきせぬみよこそ めでたけれ!」
その者が歌っていたのは "えびす舞" のようである。
「誰やあれ……っていうか……」
確かに歌は "えびすかき" の者が口にする物とほぼ同じだったが、手にしている物は木偶人形と呼ぶには無理がありそうな……太さのある枝に布を巻いただけの物だった。
頭巾を被って似たような姿をしているが、なんとなくくたびれているし、何より "えびすかき" 特有の木箱も下げていない。
「偽物……?」
シマオは驚いたが、村の神様の前で騒ぎは起こしたくない。そう思い、木の陰から様子をうかがっていた。
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