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「どうりでなんか様子がちゃうと思ったわー!」
数馬の母がシマオとコウタに食事を出しながら、そう言った。
「いつもと違う感じやけど、新しい子が来たんかなと思って。お札も違う感じやったし……」
「御神影札……見せてもらえます?」
シマオは沈んだ声でそう言った。そして手渡された紙を見て口をつぐんだ。
「手書き……やねんな。これ。一枚一枚書いたんか」
覗き込んだ数馬が驚きながら呟いた。
戎社の御神影札を見ながら、どこかで書き写したのだろう。書き慣れてはいないが、決してそれは乱雑に用意されたものではなかった。
「……真似されたんは腹立ったけど……でもなんか……」
シマオは深いため息をついてそれを見つめていると、コウタが顔を寄せてそっと言った。
「俺は……あの子の気持ち分かるかも」
シマオは顔を上げてコウタを見た。
「はっきり言って、俺なんかよりよっぽどあの子の方が "えびす舞" も覚えてるし……俺な、『えびすかきに』って誘われた事で、自分が何者かになれた気がして……安心してんやんか」
シマオは黙って頷いた。
「キヨメとしてだけで生きていきたくないって……俺は分かる。どんな仕事も大切やけど。でも小さい頃から "えびすかき" 見てたんやったら、憧れるやろな」
「なんか……」
シマオは、手にした偽物の御神影札を見つめながら話した。
「……誰がやっても同じなんかな。みんな信じたわけやろ? 俺、偉そうに真似ごとやろって言ってしもたけど……」
物陰から見ていた時の事を思い出した。
村人たちも笑っていたし、少年もはにかんだ笑顔で一枚一枚、手書きのお札をぺこぺこと頭を下げながら丁寧に渡していた。
「大きな社が偉いんか……か」
シマオはまたため息をついた。
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