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ーー *** ーー
「ではこれで。本日は本当にありがとうございました」
玄関の前で頭を下げる私に、S氏はあの優しい笑みを返してくれた。長時間のインタビューだっただろうに、少しも嫌な顔を見せはしなかったのは本当に嬉しい。仕事とはいえ、プライベートなことをズカズカと訊いたり、何度も答えたような質問を改めて訊いたりしなければならないので、不機嫌になる人は結構多いのだ。
「私も楽しかったよ」
「そう言ってもらえると、助かります。記事にしたものは後日、改めてお持ちいたしますので」
「わかりました」
もう一度深く頭をさげ、カバンを持とうと視線をおろす。その時、廊下の向こうで影を一つ、見つけた。
「あれは……」
「ああ、あれは、私の孫ですよ」
おいで。S氏が言うと、私に人見知りしながらも、とてとてと走ってきてS氏に抱きついた。
「かわいいですね」
「ありがとう。……そうだね……これは少し、期待しすぎなのかもしれないけど、聞いてくれるかい?」
「はい?」
「この子も将来、小説家になるかもしれないよ。いや、絵本作家かも」
「あの……それはどういう……?」
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