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グラスはそっとぼくを水面に戻してくれた。ぼくはプールの掃除を再開した。人間たちがいつ戻ってきて、いつプールに入るかもわからないから。
「ブルー。クックはさっき家の中で自壊したよ。料理ってのは『食べる』って行為と直結してる。人間の喜びによほど近いところにいたからな。耐えられなかったんだろう。各地のロボットたちも、どんどん自壊をしている。おれも後を追おうと思うよ」
グラスは肩をすこしだけ上下させる。
「進化の先に行き着くのは、死か。人間が自ら破滅の道へ進んだことをまったく笑えないな。ブルー、おまえはどうする──と聞いても、答えはずっと変わらずか」
うん。ぼくはここでプールの掃除をするよ。
「そうか、じゃあな」
グラスはぼくへ手を振った。その手の指が一本取れて、プールのなかにぽちゃんと落ちた。ぼくはそれを拾って、ダストボックスに捨てた。
ブラシで壁を磨いている間、ぼくはグラスの送ってくるシグナルを受信していた。
それからしばらくして、なにか庭の方で「ドン」というくぐもった音がしたあと、グラスのシグナルは途切れた。
ぼくはプールの掃除をし、掃除をし、掃除をした。
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