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 全長五十メートルのプールの掃除をし、掃除をし、掃除をする。  それがロボットたるぼくの仕事の全てだ。水に浮かぶ箱型のボディで動き回り、タイル貼りの壁をウォッシャーで洗い、磨く。床についた水垢を落とし、オフシーズンには枯葉を集め、ダストボックスに捨てる。  自律回路をご主人様から初めて与えられたとき、ぼくは〝ぼく〟になった。それより前はプールの掃除をする四角い箱型ロボット『ブルー』で、〝ぼく〟が確立されてからは、やっぱりプールの掃除をする四角い箱型ロボット『ブルー』だ。  やるべきことこそ変わらないけれど、自立したぼくは、文字通りあらゆる判断をできるようになった。充電が切れそうになれば自力でプールサイドに上がり、太陽の光の元でじっとする。壁と床の材質の違いに合わせて、ぼくの手足である掃除道具を取り変える。人が多い日は屋内に避難した。人間たちは仕事中のぼくをみつけると、素っ裸同然の水着姿でぼくにちょっかいをかけてくる。  ぼくが〝ぼく〟になったのと同時期に、ぼくの家に住む他のロボットたちも自我が芽生えたようだ。  観賞用樹木の剪定を判断に応じて出来るようになった芝刈りロボットの『グラス』。 (芝刈り機に首と頭を取り付けただけの形をしているらしい。足はキャタピラだ。)  ご主人たちのその日の気分によって、自己判断で献立を変えることができるようになった料理ロボット『クック』。 (話を聞く限りだと、彼が今のところ一番人型に近い。)  ぼくを含めこの三台が、ご主人様の家にいるロボットだ。  ぼくらは離れたところにいても自立したロボット同士、お互いに交信をすることができる。それよりも遠くにいるロボットとの交信はかなわなかったが、ぼくは特に困らない。  ぼくはプールの掃除をし、掃除をし、掃除をする。それだけでいい。
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