雨音タイプライター

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雨音タイプライター

昼前から、ぱらぱら、雨が降り始めた。窓から見える木の緑も、しっとり濡れている。気温も下がってきたようで、窓ガラスがほんのり曇った。 雨の音でふと、集中が途切れたので、ひといき吐くべく、コーヒーを淹れることにする。味にうるさい方ではないし、本格的な淹れかたにはあまり興味がない。ただ飲めればいいので、豆の量もてきとうだ。丸底フラスコの口にフィルターをセットして、目分量で豆を入れたら、コポコポとお湯を注ぐ。たぶん、正しい淹れかたではないけど、わたしにはこのやりかたで充分。コーヒーをマグカップに移して、仕事机に戻る。 わたしは、物書きをしている。ライターという感じでもないし、記者でもない。小説家とも言いがたいし、エッセイストでもない。やっぱりわたしは、物書きである。1日中家にいられる仕事がしたくて、気がついたらこうなった。 仕事道具には、タイプライターを使う。カタカタ、カタカタ、キィが鳴るのが、面白い。タイプライターで文を綴っていたら、わたしは、文を書くためにタイプライターを使っているのか、それともタイプライターの音を聴くために文を書いているのか、わからなくなる。もしかしたら、両方かもしれない。 ぽつぽつ、ぽつぽつ、雨が窓ガラスに当たって、音が部屋中にはねる。タイプライターのキィの音と重なったら、きっと、すばらしい音楽に聴こえるだろう。コーヒーを一口すすって、さあ、仕事に戻ろう。
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