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カチャリと音がしたのを聞いて、カイはまた扉に背を預けて腰を下ろす。
(恋愛など、人生の枷にしかならないものを。俺も王女も、そんなものは無い方が幸せに生きていける道にいる証拠だ)
明日から見合いの護衛が始まるというのに、余計な事を聞いてしまった気がするが、仕方ない、とカイはまた扉に寄りかかって座ると目を閉じた。
(あいつらが到着したら、話をさせるのも良いかもしれない)
自分よりも器用に恋愛を楽しむ部下の到着を、カイはいつも以上に頼もしく感じていた。
レナは深夜に話した内容をベッドの中で反芻していた。
(好意を持たれることになんの嬉しさも感じない、か。贅沢な男性もいるものね)
きっと、レナがカイに対して憧れていたと話したことも、彼にとってはごく当たり前の嬉しくない日常のひとつだったのだろう。2年越しのファン歴も、彼にとっては迷惑行為というわけだ。
(話に聞く限りでは、男性はもっと女性からの好意をありがたがるものなのかと思ったのに、有名なハウザー団長ともなれば好意を持たれるのが当たり前だったりするのかしら)
レナも異性からは好意を持たれることが多いが、見合い相手に否定されればそれはそれで傷つくところもある。好意を持たれれば逃げたくなり、持たれなければ複雑な気持ちになり、自分は一体どう思われたいのかすら分からない。
(明日からのお見合いが憂鬱)
ため息をついて目を閉じる。
日中の疲れから何とか眠れそうだが、カイの黒髪とグレーの瞳を思い出す。黒豹のような美しい獣に似た新しい護衛は、人間としてどこか不完全なのかもしれない。
(でも、今も、扉のところで待機してくれているのよね。守られていると思うと嬉しいものね)
本で読んだ騎士団長より随分と素っ気なく、イメージとは違っていたが、ホンモノはあれで魅力的かもしれない。先程聞いたあの話が本当なら、城内の女性労働者と色恋の問題を起こすこともなさそうで安心していた。
既にカイに夢中になっているらしいサーヤには申し訳ないが、2人がどうにかなる心配もなさそうだ。
(カイとは、境遇が似ている気がする……)
幼いころに両親を亡くした共通点から、なんとなく思っていた気持ちが確信に変わっていた。
いつか、自分は誰かと一緒になり、国を治める後継者を産むのだろう。それが仕事であり使命だとすれば全うするしかない。
これからも、そうやって生きていくだけのことだ。
レナはそのまま眠りについた。
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