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the 2nd night 不器用なふたり
その日の夜、カイはレナの部屋に繋がる扉の前に腰掛け、剣を抱えながら目を閉じた。
戦場に入った時に仮眠をとる方法で、休みながら何かあればすぐに戦うことができる。
(静かだな)
城内は静まりかえり、窓から月明かりが差し込んでいる。耳を澄ますと、城下町の夜の賑やかな声が遠くに聞こえる。
神経を研ぎ澄ましてみるが、近くに殺意は感じられない。今晩は安全かもしれないな、とカイは思った。
何時間たっただろう、扉の向こうに人の気配がした。
カイは抱えた剣に手をかけて立ち上がる。
(今のところ、殺意は感じないが)
気配が扉の前に来た。息を飲んで剣を鞘から抜きかける。
「……カイ、起きているの?」
聞き覚えのある声がして、カイは剣を鞘に収めた。
「殿下?」
部屋の内鍵が開くカチャリという音がすると、扉が開いてランタンを持って立つレナの姿があった。
「徹夜をすると言っていたので、今、少し話しても良いかしら?」
寝巻き姿に長いカーディガンを羽織ったレナは、軽く微笑む。
「ああ、こんな夜中にどうした?」
カイが驚いて尋ねると、
「眠れないから、あなたが徹夜しているならと思って」
と、レナは少し困ったような顔をして言った。
レナはソファに座り、膝を抱えてため息をついた。
「徹夜仕事中、ごめんなさいね。あなたの部下が合流する前に、少し話しておきたいことがあったから」
カイはソファから離れた丸テーブルの椅子に腰掛けて、「ああ」と返事をする。
部屋は暗く、お互いの顔ははっきり見えない。ソファの脇に置かれたランタンが妙に明るく部屋を照らしている。
「来年成人することになっているから、そろそろ結婚のことを考えなければいけないのもあるんだけど、なんだか実感が湧かないのよね」
レナはゆっくりと話し始めた。カイは黙って聞いている。
「カイは、恋愛経験は?」
突然の質問に、「は?」とカイが驚くと、そのままレナは続けた。
「お見合い結婚で幸せになる人たちだって沢山いるから、別にそれが自分の人生ってことは分かってるんだけど、恋愛ってどんなものなのか興味を持つくらいは良いわよね?」
自分に言い聞かせているのだろうか。カイは「あ、ああ」と相槌を打つ。
「ということで、カイに聞きたいの。その……恋愛って良いものなのかしら?」
レナの真剣な質問にカイは本気で困る。
「いや、聞く相手を間違ってるぞ」
カイはなんとか話題から逃げたがっていた。この手の話にはなるべく関わらないようにしてきたのに、何故夜中にこんなことを尋問されているのかと解せずにいる。
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