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「だってあなた、絶対モテるじゃない。相手は選びたい放題でしょうし?恋愛し放題でしょうし?相手にも困ってなさそうかなって」
レナは止まらなかった。
「そういう人から、恋愛経験を聞くのが参考になりそうなんだもの」
どうやら確信があって尋ねていたらしい。
「いや、誤解だ。俺には参考になりそうな経験なんてない」
カイは明らかに困っている。
「モテるのは認めるわよね?」
なんの誘導だ、とカイは眉間に皺を寄せた。
「言っておくがな……それが本当に知りたいことなら、この後で到着する俺の部下に聞いてくれ。その手の話は専門外だし、仕事以外のことを根掘り葉掘り聞かれるのは御免だ」
少し苛立っているのか、声に余裕がない。
「真剣に聞いているのに」
レナは馬鹿にされた気がして声のトーンを少し上げてふくれている。
「じゃあ答えよう。俺は恋愛らしい恋愛の経験なんてないし、今後も大して興味はない。そして、そんな自分のことも哀れんではいない。俺の両親は恋愛がきっかけで人生を変えて早くに死んだ。俺はそんなことで人生を棒にふる気はないんでね」
そう言うと、カイは「期待に添えず残念だったな」と心なく笑った。
それを聞いてレナは驚く。
「それ、ホントなの?あなたみたいな女性の憧れを絵に描いたような男性が、恋愛経験無しなんて、そんなことあり得るの?周りが放っておかないと思うのだけれど」
と、混乱している。
「だから俺はその手のことが苦手なんだ。勝手に憧れられて勝手に失望されて、俺の気持ちはどこにもない。放っておかれたいのに追いかけられても、そんな迷惑な相手を好きになれるわけがないだろう?」
カイが言い放つと、レナはポカンと驚いて言った。
「あなたもそうなのね」
「それじゃあ、なんだ?その……見合いでは相手から好意を持たれるものの、それが理解出来ないと?今後何かがきっかけで相手のことを見直す気にもなれないわけか?」
カイが聞くとレナは頷く。
「相手に対する興味も全く持てないと?」
カイが続けると、レナは、
「そうなのよ、なんでかしらね……その、政略結婚なんてそんなものだと割り切っていたけれど、相手の好意をその……気持ち悪いと思ってしまって前に進めないと言うか……2度と会いたくないとすら思っている自分がいたりして……」
と、頭を抱えた。
「あー……分かる気がしてきたな。そもそも、俺は好意を持たれることになんの嬉しさも感じない」
と、カイも同調した。
「そうなの?好意を持ってくれる女性のうちの1人でも気になったりしたことはなかったの?それはなんだか絶望的ね……。あなたはそれで良いと言うけど、私は自分からも好意を持って接したいとは思っているのに」
そう言うレナの話を聞いて、
「さっき俺に恋愛し放題だと言ったが、殿下は見合いで選び放題なわけだな」
と、カイは反論した。
「そんなことで勝った気にならないで頂戴。いま分かったけど、カイも私も異性との向き合い方が分かっていない点ではいい勝負よ。『騎士物語』の主人公が本当は女性を苦手に思っていたなんて、世の女性読者には言えないわね」
レナはそう言うと小さなあくびをした。
「ようやく睡魔が来たようだ。今日は寝た方がよさそうだな。こうやって少し話に付き合うくらいは護衛の範囲内だ。好きにしてくれたらいい。だから、今は早く寝て明日に備えてくれ」
カイはそう言って立ち上がり、レナを部屋に見送り内鍵をかけさせた。
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