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the 1st day 到着の騎士
人の行き交う活気のある城下町を歩くと、治安も良く、経済的にも豊かな国らしいことが分かる。
ルリアーナという小国に入ってからというもの、どういうわけか嫌な思いをすることもなく、乗ってきた馬の預け先もすんなりと見つかった。
(どうやら、本当に仕事がなさそうな国だな)
この辺りでは珍しい黒髪を持つ1人の男は、周囲を見渡し、今夜の宿を探す。
男は、これまで様々なところを旅してきたが、単身で街を歩けば狙われたり後をつけられることが多かったため、見知らぬ土地を安全に移動できるというだけのことが、とても珍しかった。
(本当に、何でこんなに報酬が破格なのかだな)
雇い主が潤沢な経費を用意してくれたお陰で、予算を気にせずに一晩滞在することができる。こんな仕事は久しぶりだ。
(どうしてこの国から指名されたのか、どうも分からない)
少し城下町を歩くと、なかなか品の良いこじんまりとした宿が見つかった。
「すまない、今日の予約が空いていれば1名で利用したいのだが」
男が宿に入ると、親に代わって受付をしていた宿の娘は思わず目を見開いた。
「は、はい。本日1名様、ご案内可能でございますー…」
息をするのも忘れて男に視線が釘付けになる。
「特別室でなければ、どんな部屋でも構わない。案内して貰えるか」
あまりフレンドリーではない印象の、それでいて目を惹きつける珍しい髪を持つ男の登場に、年頃の娘は一瞬で目を奪われた。たまたま親の代わりに受付に立たされていたことを今は感謝するほどに。
帳簿で空き部屋を確認し、ドキドキしながら相手を盗み見る。
「それでしたら、一般室で少し広めのお部屋を小さなお部屋の料金でご案内差し上げますが、いかがでしょう?料金は1泊でこのお値段になります」
当日なので、割引の案内ができた。男がどんな反応をするのかを気にし、そっと表情をうかがってみる。
「ああ、ありがとう。そちらで頼む」
少しぶっきらぼうな印象だったが、それがこの男の魅力だった。
(ああ、なんて素敵な方なの・・)
娘は、接客の間じゅう、ここ最近で一番の幸せを感じていた。
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