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とりとめのない話をしているうちに、酒と時間はどんどん進み、そのうちに沙月はローテーブルに頭を預けて寝入ってしまった。
いつものことだが、こういうところが結局自分は沙月にとって友達でしかないのだと思うゆえんだ。
一応、女と男。多少なりとも意識していれば、二人きり、一つ部屋で夜を明かすなどあり得るはずがない。
「沙月、寝るならベッド行けって」
緩く肩をゆするが、沙月は目を閉じたままでウンともスンとも言わなかった。
信頼できる男友達としての洗礼を受けている自分が、実は恋愛感情を持っていましたなんて言い出したら、不器用な沙月のことだ、きっとぎくしゃくするに決まっている。
だから、いつの頃からかこの気持ちは言わずにいようと決めた。
そのうち、沙月にも男ができて、自分から離れていくのだろう。
そしてその時、本当の友達になれる。
一か八かで大きな幸せを得たとしても、いつか無くなるかもしれない不安に怯えなければならない。小さいけれど、確実で永遠に続く幸せの方がずっといい。終わりのない友情。そっちの方がよっぽどいい。
「……ったく。しょうがないなぁ」
よいしょ、と言いながら抱え上げると、沙月が首に腕を巻きつけてきた。我慢することなどとうに慣れた。自分で選んだ道だ。
ちょうどベッドに沙月を横たえた時、カチリと鳴った気がして、時計を見上げる。ちょうど十二時だった。
外では湿った夜が、しっぽりと深みを増している。
「……誕生日おめでとう」
眠ってしまった沙月にそっと囁く。
日付が変わる瞬間に、彼氏と二人でホールのケーキを囲んで祝ってもらうのが夢なのだそうだ。そして、そこで小箱に入った指輪のプレゼントをもらう誕生日を、沙月は毎年夢に見ている。
買っておいたケーキは冷蔵庫の中だし、当の本人は寝ているし。おまけに用意したプレゼントは小箱ではない。もちろん、目の前の俺が彼氏ではないのだから、ケーキ諸々を用意したところでその夢がかなうわけではないのだが。
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