転校生は吸血鬼!?

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一ヶ月が経ち、屋敷を前にして青唯は汗を拭った。 一真は吸血鬼になった日を境に学校には来なくなった。 以前よりも更に陽の光に弱くなったため仕方ないとも言える。  青唯の背中には大きな荷物が担がれていた。 もう一踏ん張りと階段を踏みしめて、玄関のチャイムを鳴らす。 「はい」 「あ、一真くん? 青唯だよ!」 「分かった、今開けるね」 中から足音が聞こえると、すぐにドアが開いた。 中からは美味しそうな匂いが漂ってくる。 もちろん青唯は吸血鬼ではないため血液の匂いなどではなく、甘く香ばしい匂いだ。  一真は青唯から荷物を全て受け取ると深々と頭を下げた。 「これ、今週分の食材ね」 「いつもありがとう。 さぁ、中へ入って。 早速で悪いけど、血をもらってもいいかな?」 「もちろんだよ」 中へ通され椅子に座ると注射器で血を抜かれた。 青唯にとっては献血みたいなものだ。  通常よりも多めに血を抜かれるのでその後は少しふらつくこともあるが、一真も抜き過ぎないよう気を付けてくれている。 これまで倒れたりしたことはない。 ―――注射は得意じゃないけど、もう慣れたなぁ。 一真は少量の血をコップに移すと、それをグイと飲み干した。 見慣れた光景になったが、以前トマトジュースを飲んでいた時とはまるで違う。  それに加え自分の血液と思うと、何となくうなじの辺りがぞわぞわとむず痒いものだ。 「・・・ふぅ、生き返った」 「やっぱり依存の症状は苦しい?」 「そうだね。 でも死にたいとは思わないから安心して」 「よかった」 「父さんにもあげにいこう」 一真と同様少量の血をコップに移しストローを差す。 それを持って部屋を移動し始める。 「しばらくは依存の症状に慣れないかもね」 「初めて血を飲んだ後の依存症は酷いんだっけ?」 「そう。 二日に一回は飲まないと、もう餓死するような感覚になる」 「無理はしないでね、たくさん飲んでいいから」 父のいる部屋へと着いた。 二人揃って入ると椅子に座って拘束されている父がいる。 あれからずっとこのままにしていた。 開放してもいいと思うが、それは一真の気が済まないようなのだ。  それに一真の父親自身が暴れたりすることもないらしい。 血さえあればそれでいいのかもしれない。 「はい、父さん。 今週の分だよ」 両手両足縛られている父に血を飲ませた。 「ん、美味い・・・。 青唯さん、いつもありがとう」 「いえいえ」 穏やかな表情を見れば、あの日襲い掛かってきたことが嘘のように思える。 だが次の言葉には何とも言えない気持ちになった。 「な? 彼女の血は美味いと言っただろ?」 そう尋ねられた一真は気まずそうに顔をそらす。 「・・・確かに美味しいけど、それを口にすると申し訳なくなる・・・」 隣にいる青唯には当然全て聞こえている。 「お父さんはまだ解放してあげないの?」 「そうだね・・・。 そろそろこの部屋だけでも、動き回れるようにしようかな」 一真と父はあれ以来話し合い、週に一度青唯の血を与える代わりに一真の代で吸血鬼を終わらせることに賛成してくれた。 だがそれが本心からなのか見極める必要がある。  拘束を解いて逃げられてしまえば全てが台無しだ。 「父親のことをそんなに信用できないというのか?」 「できない。 それは父さんが一番分かっているだろ」 子供の頃一真が仲のよかった女の子を死なせてしまった話のことだろう。 青唯は何も言えなかった。 父の部屋を出てリビングへ戻る。 「そろそろご飯にしようか」 「うん。 こちらこそ、いつも美味しいご飯をありがとね」 青唯は血を与える代わりに、休日は鉄分たっぷりの一真の手料理を食べさせてもらっていた。 一真が以前お気に入りとして飲んでいたトマトジュースも毎回飲ましてくれるが、それは何となくなのだそうだ。食材は外へ出れない一真たちのために青唯が調達しにいっている。 「んっ、このスープ美味しい! 一真くんは本当に料理が上手だよね」 「そう言ってくれて嬉しいよ」 「新しい学校はどう?」 一真は今の学校を辞め通信制の学校へと入った。 日中行かなくて済むよう夜にやり取りができる特殊な学校だ。  「まだ二回しか行ったことがないから分からないけど、過ごしやすいところだよ。 自分のペースで行けるから本当に助かってる」 ちなみに一真が吸血鬼であるということは誰にも言っていない。 茜鈴にも一真が吸血鬼だったということは否定しておいた。 もしそうなれば騒ぎになってしまうのは目に見えている。  この屋敷に人がやってくるのも時間の問題になってしまう。 「俺は子孫を残さないって決めたけど、青唯さんもそれでいいんだよね?」 「うん。 子供がいなくても、きっと幸せになれるよ」                                                                  -END-
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