転校生は吸血鬼!?

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転校生は吸血鬼!?

闇の中で誰かに追われる恐怖は青唯(アオイ)の体力を急速に奪っていた。 「はぁ、はぁッ」 振り返って見ても何に追われているのかも分からず、その理由も不明だ。 ―――誰か! それでも全力で逃げているのは本能的なモノなのか。 立ち止まれば追い付かれてしまうのは当然で、それだけは避けなければならないと身体が芯から警鐘を鳴らす。 ―――助けてッ! 息が切れ、怖くて大きな声が出せない。 心の中では全力で叫び声を上げているのだが、音として出ることはなかった。 なるべく直線的にならないよう逃げているがお構いなしに追いかけてくる。  誰か人がいればとも思うが、残念ながら誰とも遭遇することはなかった。 「嘘・・・」 気付けば袋小路に追い詰められていた。 コンクリートの壁は飛び越えるには余りに高く、振り返って相手の脇を抜けるしか活路はなかった。 街灯の類がなく、相手の容姿はここまで迫っても確認できない。まるで大きな影が自信を飲み込むように近付いてくる。 「お願い、止めて・・・」 何を言っても反応はないが、ただ自分にとって友好的ではないと確信していた。 ジリジリと距離を詰められ、その影は一気に青唯目がけて飛んできた。 逃げることはできずこのまま終わってしまう。  青唯はそう感じていた。 「止めてッ――――」 ―ピピピピ。 目覚まし時計の音が鳴り響き、青唯は飛び跳ねるように起き上がった。 今のは夢か、と考えるがそうではない。 夢であるが完全な夢ではなく、実際に体験したことのフラッシュバックに近い。 ―――今のは、二週間前の・・・。 ―――あの後、どうなったのか全然憶えていないんだよね。 ―――一体何だったんだろう? ―――今日は二週間ぶりの学校かぁ。 青唯はこの春高校に入学したばかりの新入生。 新生活にも慣れ、これから夏に差し掛かろうというところで酷い貧血で倒れてしまい、二週間もの間入院していた。  ただの貧血であれば通常二週間も入院なんてありえないが、何故か回復が遅かった。 今も朝であることもあり多少の貧血から頭がボーっとしている。  目覚ましを止めストレッチとして首を回すとチクリと痛んだ。 「痛ッ・・・」 何かと思い鏡を覗いてみると二ヶ所赤くなっていた。  ―――こんな傷、あったっけ? ―――蚊かなぁ。 そうは思うが痒みはなくただ痛いだけだ。 襟元が開けば見えてしまう可能性があり、女子として少しばかりみっともないように思った。  だからといって絆創膏をするのも大袈裟で、早く消えてくれることを祈る。 「青唯ー! 起きなさーい! もう朝よー」 「はーい!」 母に呼ばれて朝の支度をし始めた。 首筋の傷は薄いファンデーションで隠し学校へと向かう。 久しぶりの学校は新鮮さよりも不安の方が大きい。 ―――入院中、茜鈴(アカリ)に授業でやったところを教えてもらったけど不安だなぁ。 ―――流石に二週間も空くとなると・・・。 「わぁッ!?」 勉強の復習をしながら歩いていると、急に教室のドアが開いてそこから出てきた生徒とぶつかってしまった。 「ごめん! 考え事してて。 大丈夫?」 見上げると見たことのない男子がいた。 ぶつかったのは自分だが、体格差で転んだのは自分だけだったようだ。 彼は長袖を着てマスクをしていて、少し腰を落として手を差し出してくれている。 ―――こんな夏に、暑くないのかな? 今の今、疑問に感じるところはそこなのかな、とか思いつつ手を取って立ち上がる。 ただ妙に気になったのだ。  見たことのない男子がクラスにいるということよりも、こんな暑い日に長袖を着ているということの方が。 「ありがとう」 ただ流石にそれを尋ねるのは失礼で、礼を言うと彼は尋ねかけてきた。 「もしかして、青唯さんだったりする?」 「え? そうだけど・・・」 「そっか。 ぶつかって本当にごめんね。 それじゃあ」 落ちたノートを拾い青唯に渡すと何故か教室の中へと戻っていった。 やはり見たことのない男子はクラスメイトのようだ。 ―――あの男子、同じクラスにいたかな? ―――もうクラスのみんなの名前は憶えたと思ったんだけど・・・。 教室に消えていった彼を見ながら考えていると、肩を抱き付かれるよう叩かれた。 「青唯! おっはよー! 転んでいたけど大丈夫だった!?」 「茜鈴! おはよ。 怪我とかはないよ」 茜鈴は高校で一番の友達だ。 病み上がりにしては激しい挨拶だが、これが茜鈴流で気を使わないようにしてくれている。 それを嬉しく思うが、今はそれよりも先程の男子が気になっていた。 「さっき青唯とぶつかった男子、一真(カズマ)くんって言って転校してきた子だよ」 「え、この時期に転校!?」 「そう。 青唯が入院する丁度二週間前に来たの」 「へぇ・・・。 通りで知らない子のわけだ」 自分と入れ替わるようにここに来たらしい。 タイミングがいいのか悪いのか分からないが、それが余計に気になって目で追ってしまう。 「そう言えば青唯、貧血だったんでしょ? 次の犠牲者として選ばれたっていうこと!? 私の青唯なのに! 許せない!」 「ははは・・・」 拳を握り締める茜鈴に乾いた笑いを返す。 正直なところ、貧血で倒れ入院したのは事実だがあまりよく分かっていない。  ただ青唯もここ何年かの間に、半年に一度のペースで若い女性が貧血で倒れて入院しているという噂は知っている。  いや、噂というレベルではなく、中学の頃の同級生に同じ症状で入院した女子を知っていた。 今回は運悪く青唯がそれに当たってしまったらしいのだ。  「もう完全に復帰したから大丈夫だよ。 ありがとうね」 この時一真がこちらを見ていることに青唯は気付いていなかった。
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