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「星來くん」
一番星が瞬く。澄み切った泉のような声が星來を呼んだ。
視界が白に染まる。意識が自分の体に舞い戻ってきて、先程よりも全ての感覚が現実味を帯びていく。
目を開けても、そこはまだ現ではなかった。夢だと確信できる。いわゆる明晰夢というヤツだ。
視線の先にいるのは、幼いままの妹尾陽星だった。真っ白なワンピースに身を包んだ彼女は、自分とよく似た瞳をこちらに向けてそこに佇んでいる。
「……陽星」
「星來くん、あのね――」
陽星が何かを言いかけた時、その姿が不鮮明に揺らぐ。データのように姿が大きく乱され、声がノイズ混じりになっていく。彼女はひどく焦った様子だった。何が言いたかったかを聞きたいのに、それに反して星來の意識は急速に遠のいていく。
星が降っている。
地響きがするような轟音が響き渡っている。それに混じって聞こえる旋律は、よく思い出せない。青い青い旋律。ピアノから聞こえる煌びやかな旋律が、叶えられなかった約束を叶えていく。二人で見たかった星空が、そこにはもうあった。
あぁ、どうして視界がこんなにも滲むのだろう。なぜ会えるはずのない彼女がここにいて、温かなその体を抱きしめているのだろう。腕の中の彼女は、彼女が歩むはずだった未来の姿をしている。どうして、どうしてなんだ。
これが夢じゃないというのならば、一体なんだというのだろう。
聞こえる夜想曲も、頭上に広がる星空も、この体温も、全部が本物だった。
「……夢を見るのはもう、終わりにしよう」
迫る朝焼けが、そんな彼女の声を溶かしていった。
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