王太子妃……恐ろしい響きだ

10/21
前へ
/264ページ
次へ
『同じ奴隷のよしみで、私も何かしたいです。魔力はないですけど』  そう言うと、ルーシェンは少し悲しそうな顔をした。 「シュウヘイは奴隷じゃない。俺の婚約者で、宝物だ」 『え?』  聞こえたけど、ストレートな言葉が胸に刺さって思わず間抜けな返事をしてしまう。 「何かあったら俺は正気ではいられない」  俺の胸に顔を埋めてそう言ったルーシェンの髪をそっと撫でてみる。  俺は自分の傷には無頓着だけど、ルーシェンはそうじゃない。多分俺より傷ついているのかも。俺はもっと……ルーシェンのために自分を大切にしないといけないんだ。やっぱり王妃様に弟子入りして強くなろう。 『ルーシェン、元気出してください。私はルーシェンが思うより強いです。傷跡はありますが、痛みは大したこと無かったです。その証拠に、緑水湖も泳いだし王宮も登れました』  ルーシェンが顔を上げて、今度はあきれた表情で俺を見る。 「二度と王宮の壁は登るな。まったく……シュウヘイはまるで分かっていない。そんな所が心配なんだ」  ブツブツ言うルーシェンを黙らせるべく、頬に手を添えて引き寄せキスをしてやった。 従者が近くにいようと関係ない。ちょっと恥ずかしくても、それでルーシェンが元気になるなら。  音を立ててキスすると、スイッチが入ったのかルーシェンに押し倒されて深く口づけされた。  衝撃で机から巻物が落ち、二人して転がる巻物を目で追うと、すぐ傍でこっちを見ている太郎次郎と、さらにその先にこっちを見ている従者一同が視界に入った。  人数多いな。  飛竜のトレーナー達もいる。 『ルーシェン……やっぱり続きは夜で』 「夜もたいして変わらないが」 『少しは違います。今日は早く帰ってきてください』 「分かった」  その後は何事も無かったようにルーシェンは書類に目を通し、俺は飛竜達の世話を焼いて過ごした。  
/264ページ

最初のコメントを投稿しよう!

523人が本棚に入れています
本棚に追加