王太子妃……恐ろしい響きだ

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 ルーシェンを待っているつもりだったのに、ベッドに入ったらすぐに眠ってしまったらしい。  らしいというのは、ベッドに入ってからの記憶がないからだ。次に起きたのは夜中で、突然何かの重圧を感じたせいだ。  うわ……!  何がおきたのかと思ってベッドの上に飛び起きたら、真上にシロがいた。  やけにハッキリと見える。それもルーシェンが寝室に張り巡らせている魔法のすぐ上を、まるでトランポリンの上で跳ねるように飛行して遊んでいる。  何だ……シロか。びっくりした。  隣を見てもルーシェンはいなかった。  まだ仕事をしているんだろうか。今日は早く帰るって言ってたのにな。  下の階に降りていって水とか夜食をもらおうか悩む。身分が低ければ何てことのない行動だけど、今の立場でそれをやると侍女達が大騒ぎする。誰かは必ず起きているけど、眠れる立場の侍女達まで起こすのは申し訳ないような気がするし、我慢しようか考えていたら下の方で声がした。  ルーシェンだ。多分帰ってきたんだな。  裸はまずいから脱いだ服を着て、びっくりさせてやろうとこっそり寝室を抜け出す。ついでに夜食ももらおう。  階段の陰に隠れて下を見ると、ルーシェンとフィオネさんが話をしている所だった。  ルーシェンはお風呂からあがった後みたいで、髪が少し濡れている。フィオネさんが渡す寝間着と呼ぶには高級すぎる青い衣装に着替えていたけど、格好良すぎて見とれてしまうな。いまだに王子と婚約してるなんて信じられない。  ニヤニヤしながら何て声をかけようか悩んでいると、二人の会話が聞こえてきた。 「……ミサキ様はすでにおやすみになられております」 「そうか。何か変わったことはないか」 「ここ数日は、安静に過ごされております」  風邪引いてる訳でもないのに、二人とも心配性だなぁ。 「治療師の話では、出来るだけ早いうちに薬を飲ませた方が良いとのこと」 「……そうか」  ん? 薬?  薬ってなんの話だ? 「魔法治療ではやはり心臓への負荷がかかるようです。発作を起こす可能性も低くはありません。薬が一番良いのですが今はどこの国も、有能な薬師ですら取り扱ってはいないようです」 「だろうな。素材が貴重すぎる」  ルーシェンは重いため息をついた。  嫌な予感がする。まさか俺の事を話してるんじゃないよな。
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