恋にライバルは不要です

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「今なら間に合う。ミサキ様を離せ」 「邪魔をするな」  戦闘が始まってしまった。剣が風を切り、何かとぶつかる音が響く。接近戦だから魔法は使わないのだろうか。飛行部隊の方が人数が少ないから不利だ。それでも精鋭だけあって複数の相手と対等にわたりあってる。俺は抱えられたまま檻に入れられそうになったので必死に抵抗した。  展望台からちらりと崖のような砦を見上げると、びっしりと異世界文字の呪文が見えた。魔法村のような狂気を感じる。この砦に滞在している者は多分、知らないうちに魔法にかかってしまってる。  最初に来た時には何も感じなかったのに、二回目に来た時には変だと思った。ホレスが奪った魔法石なのかどうか分からないけど、強力な魔法アイテムで砦にかけられた魔法が強化されたんだと思う。ここに滞在していたら、この魔法の罠をしかけた犯人、おそらくエルヴィンにたちうちできない。 『離せ!』  しつこく暴れていると、周辺でぶわりと魔法の力が弾けるのを感じた。酔った時みたいに吐き気が込み上げた。なんの魔法か分からないけど、魔力が濃すぎて気持ち悪い。どっと冷や汗が出て視界が暗くなる。立っていられない。 「大人しくしろ」  言われなくてももう動けない。片手で担ぎ上げられて檻に入れられそうになった時、ルーシェンの声が聞こえたような気がした。 「何をしている!」 『ルーシェン……?』  戦いが止んだ。全員が武器をおさめてその場に膝をつく。俺を抱えていた男も、抱えたまま動きを止めた。すぐそばに歩いて来たルーシェンがいつもよりずっと低い声を出す。 「何をしていると聞いているんだ」 「命令により王太子妃様の処刑を……」 「誰がそんな命令を出した!」  ルーシェン、怒ってるな。空気がビリビリ震えてる。そんなことをぼんやり考えてたら、いきなり抱え上げられた。いつものルーシェンの腕だ。涙が出そうになって首にしがみついた。 「申し訳ありません。しかし処刑命令が出たと言われ、命令書には王子の名前もあり……」 「そうか。では命令書を発行した者を捕まえて朝までに俺の前に連れて来い。できなければお前たちを檻に放り込む」  ヒイッというような国王軍の兵士たちの声がその場に響いた。
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