王太子妃……恐ろしい響きだ

2/21
520人が本棚に入れています
本棚に追加
/264ページ
*** 「おはようございます、ミサキ様」 『お、おはようございます』  婚約式から十日が経った。  目を覚ますと寝室の入り口近くに侍女や侍従達がずらりと並んでいる。俺が目を覚ますのを待ちかまえているのだ。初めて見た時は驚き、次は気になって眠りが浅くなったから、今では時間が来るまで寝室には来ないように言ってある。それでも隣室で待機しているらしいが。  ちなみに今日は隣にルーシェンがいない。朝から視察に行っている。  俺はついていかなくていいらしい(断られた)ので二度寝をしていたら久々に侍女達に押しかけられた。  実はまだ俺とルーシェンは各都市をまわる新婚旅行に出かけられないでいた。  それというのも婚約式のファンクラブ男の襲撃事件のせいだ。あの時は落ち着いて見えたルーシェンも、ロベルトさんやアークさんに詳細を聞いて激怒したらしい。緑水湖の街はもちろん、近隣の街まで根こそぎ犯罪者の取り締まりをして関係者を拘束しているらしい。  ルーシェンの怒りは当事者の俺でもなだめられないくらい凄まじいけど、王子が潜伏していた奴隷商人達をかなり拘束したというニュースは嬉しかった。解放された奴隷達はどうなるんだろう。もちろん医療機関で治療を受けたり、故郷に帰ったりすると思うけど、この世界にはカウンセリングとかなさそうだから、同じ奴隷になったよしみで俺も力になれることがあれば何かしたい。王太子妃だからな。  それにしても……王太子妃、恐ろしい響きだ。  婚約式から十日経っただけなのに、部下達の態度が一変した。王子の居住エリアにいて、以前から仲良くしていた侍女達でさえ、婚約式後は態度が恭しくなった。そして数も増え、護衛も増え、朝の挨拶から仰々しい事になるんだ。 「どこか体調に変わったところはございませんか?」  俺専属の治療師が、手や肩や顔に手を触れてあちこちチェックする。  フィオネさんが本日のスケジュールを読み上げる間、俺専属の侍女が顔を拭いてくれたり水を飲ませてくれたり、衣装を持ってきてくれたり髪を整えてくれたりする。  恐ろしいのはこれが、あくまでも部屋着でうろつく為の準備という事だ。下の階の者(と侍女達は言ってる)と会う外出前や、国王と王妃様に会う時はまた盛大な衣装変えがある。
/264ページ

最初のコメントを投稿しよう!