王太子妃……恐ろしい響きだ

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「ミサキ様! お久しぶりで御座います!」 『ジョシュ!』  その日の午後、21階にある王族のプライベートエリアの片隅のおもてなし広場で、俺は久々に会えた友人に抱きついた。  俺が抱きついたのを見てフィオネさんが咳払いをする。聞かなかったことにしよう。フィオネさんは俺がルーシェン以外とベタベタするのを良しとしない。たとえフィオネさん本人でもだ。だけど、ジョシュにくらい抱きついてもいいと思うんだけど。ただの友達なんだし。 「ミサキ様にはご機嫌麗しく、お目にかかれて光栄で御座います」  ニヤニヤしながらジョシュが堅苦しい挨拶をする。ポーズといい口調といい王族に対しての正式な挨拶なんだけど、ジョシュがやるとなんだか笑えてしまう。ぽっちゃりしてるからかな。 『ジョシュは元気ですか?』 「はい! こちらはミサキ様への献上品です」 『いいんですか?』 「いいんです。実は僕、出世しました。ミサキ様を助けたことが上司にかなり評価されて、王族の方々のお食事を作る部署に配属になったんです。これ見てください」  ジョシュが、首から下げていたのは21階に入る事の出来る身分証明書だった。魔法で青紫色に光っている。 『じゃあもしかして……』 「はいっ。ミサキ様や王族の方々のお茶会やお食事の時には顔を出せます」 『やった!』  再びジョシュに抱きつくと、フィオネさんがまた咳払いをした。  でも嬉しいんだ。21階にいる兵士は決まっていて、下の方の階の兵士や友人にはほとんど会えないから。会おうと思っても予約制で半年後とかザラだ。  確かに俺も昔はルーシェンに会いたくても、予約しろとか上司に報告しろとか、とにかく面倒な手続きが多くてほとんど会えなかったよな。  ジョシュは持参したお土産のお菓子をテーブルに用意した。侍女がカップにお茶を注いでくれる。 「なんだか落ち着かないですね」 ジョシュが小声で言った。 『そうなんです。完全に一人の時があまりなくて』 俺も小声で返す。  テーブルの周りには護衛の兵士二人と侍女が二人、侍従とフィオネさんが待機してる。内緒話とか出来ないレベルだ。 「ミサキ様、いまだに丁寧な言葉遣いだし。もっと命令口調になってもいいんじゃない? ……んでしょうか」
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