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そのまま髪と頬と首筋にキスされて、嬉しいけど困惑する。まさかここで何かするわけじゃないよな。確かにここ数日ずっとルーシェンは忙しくて、朝俺が起きたときにはいないし、帰りも俺が寝た後で戻って来るような状態だ。帰るまで待っていようかと思うけど、つい熟睡してしまうんだよな。夜中にルーシェンに気づいても、起こすの悪いし。だから少しだけ欲求不満だ。だからといって、昼間から屋外でっていうのはいくら俺でもちょっと抵抗があるけど。
『あの、書類はいいんですか?』
「たいした書類じゃない」
重要じゃない書類ってあるのか?
そう思っていると俺の心臓の辺りにルーシェンが手を当てた。
「シュウヘイ……あと数日中には全て終わりそうだ」
俺の胸、ちょうど心臓のあたりには、小さな火傷の跡みたいな魔法の痕跡が残っている。これは婚約式の日に、魔法使いの変態親父に何度か魔法攻撃を受けた跡なのだ。治療師に見せても完全に綺麗にはならなかった。
ルーシェンは初めてそれを見た夜に、こっちがびっくりするくらい激怒した。ルーシェンは優秀な魔法使いだから、傷跡を見ただけで受けた魔法の種類だとかそういう事を理解したんだと思う。
後で治療師のお姉さんに聞いたら、心臓に直接死なない程度の魔法を撃つのはかなりきつい拷問の一種らしい。確かにあの時は死ぬかと思ったもんな。
『襲撃事件の事ですか?』
「ああ」
どうなったか聞いた方がいいんだろうか。聞きたいけど、怖いような気もする。でもやっぱり聞いた方がいいのかな。
『王子様を騙したら、やっぱり重罪ですよね』
「主犯の四人は島送りだな。それぞれ別の島になるが。一族は国外追放で財産は没収だ。シュウヘイが二度と嫌な思いをしなくてすむように、あの屋敷は解体して更地にする」
島送り……って江戸時代か。
もっと斬首とかそんな感じかとおもったけど、そういえばラキ王国でそういう話を聞いたことがない。
『奴隷だった人達はどうなったんですか?』
「今は治療部屋にいるが、その後は身元を確認して故郷に帰すようになるな」
『そうですか……なにか私に出来ることはないですか?』
「大丈夫だ。シュウヘイが心配することはない」
ルーシェンはそう言ったけど、これは別の誰かに聞いてみる必要があるな。
ついでにラキ王国の法律も勉強しよう。知らないことだらけで王太子妃として恥ずかしい。こんな事じゃルーシェンのフォローも出来ないからな。
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