<20・テンバツ。Ⅰ>

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<20・テンバツ。Ⅰ>

 ストレスの上手な発散というものは、とても大事だ。それは、小学生男子とて例外ではない、と濱口玲於(はまぐちれお)は思っている。  それをいじめだなんだと騒ぐ連中もいるが、奴らは全く分かっていない。そう思うなら、他にもっとスマートにストレスが発散できる方法を探して、子供達に提示してくれと言いたい。子供だからアレもダメ、コレもダメ、アレは見ちゃいけないやっちゃいけないとがんじがらめに大人が縛るせいで、自分達はその狭い檻の中で足掻かなくてはいけなくなっているのだ。  だから、悪いのは自分達ではない。  何でもかんでも子供を自分達の思想の奴隷にしたがる、クズな大人達と社会の方なのだ。 「獅郎(しろう)の奴さあ、転校先でも全然うまくやれてないらしーぜ」  昼休みの教室で、玲於の友人の一人であるカズキが口を開いた。  熊倉獅郎(くまくらしろう)。二ヶ月ほど前にこのクラスから転校していった、元クラスメートの名前である。同時に、自分達の“ターゲット”であった少年でもあった。彼は太っていてノロマで、ドッチボールでもリレーでも自分達の足を引っ張るクラスのお荷物だったのである。だから、自分達が彼を“教育”してやっていたのだ。いじめ、だなんて安易な言葉で言われる筋合いはない。自分達は彼にぶつけることでストレスを発散できるし、獅郎は自分達の真摯な“教育”を受けて、他人に迷惑をかけないまともな人間に変わることができる。まさに自分達は、ウィンウィンの関係という奴であったのだから。  あくまでこれは、お互い納得の上でやっていたこと。  そもそも、獅郎が失敗ばかりのゴミ野郎でなければ、自分達とて“教育”なんぞをしてやる必要はなかったのだから。 「隣町の小学校に、丁度俺の従兄弟がいんだけどさ。なんか、いっつも教室の隅っこで小さくなってるらしい。デブのくせに」 「うっわマジか。暗いのはさらに拍車かかっちゃってるかんじ?」 「おいおい、あいつ俺達が散々“教育”してやったってのに、全然反省してねーのかよ。もっと明るく元気ににこやかに!運動が得意になってみんなの役に立てる人間に!って俺らがあんなに頑張って教えてやったってのにさあ」
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