冬野 誠のHappy Happy Birthday Janny 大波乱編 By 冬野誠

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いや、土曜日によく見る、夕方の情報番組だよね。 18時30分から18時55分までやっている。 私はユキさんの反応が見たくて、ユキさんの表情に視線を移すと、ユキさんの視線とかち合った。 僅かに首を傾げて肩を上げる動作に、『どうする?』と言うニュアンスと受けとった。 「わらすぼのふりかけとか、柳川のうなぎ屋さんとかを取材に行くんですけど」 目をキラキラさせながら、私達を見つめられても、何も出ないし出せない。 ってか、ダメ。 今日は、ユキさんとの初めての誕生日なんだ!! そんな心の余裕はない。 「え、うなぎは今日は予定にないです」 「そうなんですね」 残念そうだが、私にとっては幸いだった。 だって。 「お昼家で食べて来たんです、うなぎおにぎりをおやつにしようと思って」 「え、っマジですか?」 「柳川って、川下りの出来る川を挟んだ両側の道がメインストリートじゃないですか? そこからちょっと入った所に、北原白秋って歌人さんの生家が記念館になっててそこの近くに美味しいお店があるんです」 「何て言うお店ですか?」 「お店の名前までは……。場所で覚えてるんで」 「そうなんですね。ってか、私の取材先のお店も、うなおにぎり何ですけど……」 そう言うとリポーターの女性はスマホを取り出し、お店のhpを展開させて私に見せて来た。 「あっ、ここだ!」 「本当ですか!! 良かった」 「いや、良くないですよ。せっかくの柳川ですよ! 柳川屋さんとか、若松屋さんとかのがっつりうな重、せいろ蒸しとかで行かないんですか?」 「はい。今回は気軽に立ち寄れる、西鉄大牟田線で行く柳川散策とレイルキッチンのリポートなんです」 何、私と全行程全被りのコーナー設けてんだよ。 驚愕する私にユキさんがそっと耳打ちした。 「セイ。嫌なら、俺断るよ」 何て、優しいユキさん。 でも、だ。 問題はもはやそんな生易しい事ではない。 私が今まさに危惧しているのは、だ。 恐らく。 仮に、ここで、その申し出を断ったとしてだ。 彼らと、試に柳川駅で別れたとしよう。 恐らく、柳川駅から柳川の川下りスポットに向かうバス停で再会してしまう。 よしんば、タクシーでも一緒だ。 柳川の行先が全部被って居るんだ。 「今日が、来月から始まる新コーナーの記念すべき第一回なんです。是非、そんな私達の門出に花をお供えして下さいませんか?」 「え、花をお供えって、お供え物?! それを言うなら花を添えて……じゃないかな? じゃないと、死んだ人として扱って欲しいってニュアンスになりますよ」 「え、間違いました?」 「多分」 後ろでユキさんが、「ちょっ、君ら、おもしろいよ」と笑い出した。 取り敢えず、断ろうと画策したが、数分後、スタッフの人がこそこそとリポーターの女性と話し込み始めて、気まずそうに私達にとんでもない事を言って来た。 「すみません、新しいカメラの初降ろして、カメラテストをしていたんですけど。良かったら、とは言いません。これは、もう是が非でもなんですけど」 「はあ……」 私とユキさんが何事かと首を傾げていると、彼女はとんでもない事を言い出して来た。 「実は今の一連の流れ何ですけど、デモのテストで収録してしまったんです。新人の子が居て、練習も兼ねて、カメラを回してて。その……今のすごく面白くて。自然で……。なので、コーナーのイントロでそのまま、使わせていただけないでしょうか?」 「「ええ!!」」 何言ってんのよ。 せっかくの私の旦那様の誕生日に、変なイベントに巻き込まないで欲しい。 断る云々の前に、もうカメラがまわっていただと?! もうどっぷり強制的に片足を突っ込んでるって事じゃないか。 私達、ただのデートじゃないんです。 付き合って & 結婚して初めての誕生日デートなんです。 「せっかくなんで、記念にもなりますし、取材に協力いただけませんか?」 「いや、記念は良いです。 今日は、そもそも私達、付き合ってからと、結婚してから初めての、主人の誕生日をお祝いするデートなんです!」 もう正直に言えば、諦めてくれるんじゃないだろうか? そう思って言ってみたものの。 「それって、是非、記念にテレビに出るべきじゃないですか!」 え、そうなの? 思わず、ユキさんの顔を見つめたが、ユキさんもさすがに呆然としていた。 「え、ユキさん。これって」 私が困った顔をすると、ユキさんは宥める様に笑って言った。 「セイが困るなら、断って良いよ」 「ユキさん……。じゃぁ」 「私、後がないんです。お願いします」 正直、子供の頃は、テレビの中継とか街に来たら、映りたいと思った事が幾度かあったが。 今はそんな気持ち、微塵もない。 なのに、私が断る決心をした流れで、リポーターの女の人は両の掌をこすり合わせて、私達の前で頭を下げてそう拝んで来たのである。 どう言う事だ。 後がないって。 意味が分からない。 私、シティーハンターじゃないから、xyzとか、もう後がないとか言って来る人のお困りごとに力を貸すような類いのルーティン持ち合わせてませんから!! 「「ええ」」 「お願いします。私、このコーナーが初めてのレギュラー番組になる予定なんです」 「予定?」 「はい、実は来月のオンエアの時に、新コーナーの勝ち抜き戦をして、それでトップじゃないとレギュラーコーナーになれないんです。私、まだ駆け出しで。お願いします」 いや、そんなお願いされても。
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