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上司は私の目をじっと見つめ、その先の言葉を続けた。 「勿体無(もったいな)いよ」 思いがけない一言だった。 「せっかく今のスキルがあるのに、辞めたら絶対勿体無い。もしきちんとした介護が必要なら、専門家に頼んでもらえばいいじゃない。ね? それはだめなのかな? だから、そういう理由で辞めちゃだめだよ」 私は一気に溢れ出した涙を止めることが出来なかった。こんなにも私のことを思って考えてくれてたなんて知らなかった。 残酷なんかじゃなかった。非道なんかじゃなかった。 たった一瞬で、しっかりと私の意を汲んで、これから先のことまで考えて述べた一言だった。 思い返せば、プロ意識が高く自身の仕事に誇りを持って取り組んでいる人だ。 残業したのも決して絶対的ではなかった。厳しく接していたのも、私の向上につながるためだったんだ。必要とされていることが何より嬉しかった。 ちゃんと見えていなかったのは私の方だ。 この時、私は初めて上司に尊敬の念を抱いた。
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