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試合は一進一退の攻防戦にもつれた。
原因は明らかに由菜のトスだった。
いつも通りの位置にボールが来ないことに、少しずつ歯車が合わなくなっている。しかし監督も佳那も由菜を交代させない。周りのメンバーもわかっている。
なんとか第2セットをもぎ取り、最終セットに持ち込むことが出来た。メンバーの疲労は濃くなりつつある。
「みんな、ごめん」
由菜が頭を下げる。
「監督、お願いします。交代をさせてください。負けたくないんです」
初めて由菜が交代を申し出る。そのことに佳那は驚いた。
入部してからの不動のセッター。
そのトスは多彩な攻撃を可能とさせながらも、ブロックにも献身的。誰よりも試合状況とメンバーの体調を把握している。バレーボールが好きで、練習の鬼で、背中でチームを引っ張ってくれる。
それが佳那の知っている由菜だ。その由菜が頭を下げて監督に交代を申し入れる。それがこれほどの衝撃を生ませるとは、佳那自身知らなかった。
「お前を変える気はない」
監督のはっきりした言葉が放たれる。由菜はもどかしそうな顔をしながら、監督から目線を外さない。
「お前はうちの不動のセッターだ。お前がうまく行かないなら他で補えば良い。なあ、キャプテン?」
話を振られた佳那は力強く頷く。
「もちろんです。由菜1人で勝ってきたつもりはないですから」
「でも、今日は、もう」
まだうじうじとしている由菜の姿を見て、佳那はチームメイトに発破をかける。
「由菜のためにどんなボールでも拾うよ、みんな!」
「はい!」
ピー
最終セットの合図が鳴り響いた。
スターティングメンバーはそれぞれのポジションに向かう前に、由菜の背中を叩いていく。
最後に佳那が由菜の肩を抱きながら、コートに共に入る。
「勝つよ」
佳那の静かに闘志のこもった声に、由菜は佳那を見る。
「勝って全国に行く。それは変わらない」
「わかった」
お互い拳をつきだし、軽く合わせる。
「さあ、ここをもぎ取って次に行くよ」
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