もつれる

1/1

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

もつれる

 試合は一進一退の攻防戦にもつれた。    原因は明らかに由菜のトスだった。  いつも通りの位置にボールが来ないことに、少しずつ歯車が合わなくなっている。しかし監督も佳那も由菜を交代させない。周りのメンバーもわかっている。  なんとか第2セットをもぎ取り、最終セットに持ち込むことが出来た。メンバーの疲労は濃くなりつつある。 「みんな、ごめん」  由菜が頭を下げる。 「監督、お願いします。交代をさせてください。負けたくないんです」  初めて由菜が交代を申し出る。そのことに佳那は驚いた。  入部してからの不動のセッター。  そのトスは多彩な攻撃を可能とさせながらも、ブロックにも献身的。誰よりも試合状況とメンバーの体調を把握している。バレーボールが好きで、練習の鬼で、背中でチームを引っ張ってくれる。  それが佳那の知っている由菜だ。その由菜が頭を下げて監督に交代を申し入れる。それがこれほどの衝撃を生ませるとは、佳那自身知らなかった。 「お前を変える気はない」  監督のはっきりした言葉が放たれる。由菜はもどかしそうな顔をしながら、監督から目線を外さない。 「お前はうちの不動のセッターだ。お前がうまく行かないなら他で補えば良い。なあ、キャプテン?」  話を振られた佳那は力強く頷く。 「もちろんです。由菜1人で勝ってきたつもりはないですから」 「でも、今日は、もう」  まだうじうじとしている由菜の姿を見て、佳那はチームメイトに発破をかける。 「由菜のためにどんなボールでも拾うよ、みんな!」 「はい!」  ピー  最終セットの合図が鳴り響いた。  スターティングメンバーはそれぞれのポジションに向かう前に、由菜の背中を叩いていく。  最後に佳那が由菜の肩を抱きながら、コートに共に入る。 「勝つよ」  佳那の静かに闘志のこもった声に、由菜は佳那を見る。 「勝って全国に行く。それは変わらない」 「わかった」  お互い拳をつきだし、軽く合わせる。 「さあ、ここをもぎ取って次に行くよ」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加