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決めて
由菜の完全覚醒。
そういうのに素晴らしいセットが立て続けに生まれる。
躍動感溢れる動き。チームメイトに向けるその視線の雄弁さ。全てがいつも以上の由菜のセットだった。
「祐希、ナイスレシーブ」
祐希からのAパスに、由菜は口許をほころばせる。美しい弧を描いて球はぴったりと由菜の手の平に到達した。
すぐさま由菜はチームメイトの状態を確認する。エースの桃子がしっかり踏み切ったのと同時に由菜は桃子のもとへ球を送った。
「3枚!」
相手はわかっていたかのように、桃子の前に3人のブロッカーが揃えて飛ぶ。それを桃子もわかっていたのか、球を打つ直前でふっと力を抜き、球に優しくタッチをした。
「リバウンド!!」
桃子の判断は由菜に更なる余裕を持たせた。祐希がすぐさま高くパスを上げる。由菜は球の真下にすぐさま移動して、ネット越しに相手チームを観察した。
「佳那」
由菜に呼ばれた佳那は球に向かって、助走を始める。
(マッチポイントは私たちが握っている!)
高く高く上げられたその球は佳那が向かっていく先に行く。タイミングを間違えることなく、佳那は踏み切り、体を引き上げる。
ピタリと右手を挙げた位置に球が入ってきた。
(なんか、感動する)
どれだけ、この一球を、この試合で欲しかったことか。
ブロックは2枚。それを確認すると、佳那には球が行くべき道筋が光って見えた。
『決めて』
球からそう由菜の声が聞こえたような気がした。体をしならせて、佳那はその右手を勢いよく振り下ろした。
ズバンッ
気持ちが良い音がコートに響き渡った。
球はコートに叩きつけられ、跳ねた。
ピピー
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