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二人が遊園地を出ると見知らぬ男がエリカの腕を掴んで声を荒げて言う。
男:おいっ、お前こんなところで何をしている?
男は憐を一瞥するとエリカに向き直ってから腕を引っ張る。
男:こっちへこい!
憐:おい、待て!エリカに何するんだ!
男:ちっ、すまないが部外者の君は席を外してくれないか?
男は大層不機嫌そうに言ってくる。
男は路地裏にエリカを連れ込むと小さな声で言う。
男:おい、紛らわしい行動はするもんじゃない。昨日の話を忘れたのか?
エリカ:…ここには前から行こうと約束していたんだ。特に深い意味はない。
男:約束が守れないようなら…分かっているんだろうな。
エリカ:……。
男:はぁ~、『偽物』は『偽物』らしく大人しくしていろ
男はそういうとエリカを突き飛ばして、路地裏へと消えていく。
憐:エリカ、大丈夫か。
エリカ:う、うん。大丈夫だよ。それより今の話聞こえちゃった?
憐:あぁ。
エリカ:本当はね。この話をしちゃうと憐くんにも危害が加えられる可能性があるの。それでも―
憐:それでも俺はエリカの話を聞きたい。何か力になれるかもしれないから。まず、あの男は誰なんだ?
エリカ:あいつは当馬(とうま)。
憐:そいつとエリカにどんな関係があるんだよ。
憐がそう言うとエリカはきつく口を閉ざした。
憐:俺はエリカを信じる。話してくれ。
エリカ:憐くんは私がエリカのクローンだって言っても信じてくれる?あっ、でも本物と何ら変わらないからっ!
エリカは体の前で手をパタパタと振る。
憐:え? 待って、どういうことだ。
エリカ:そ、そうだよね。当然こんなこと言っても信じられないよね。
憐:……。いや、信じるよ。
エリカ:そんな、いくら憐くんでもそれは―
憐:いや、俺はエリカを信じる。例えクローンであっても信じるよ。
エリカ:…ありがとう。
憐:それで、クローンのエリカがここにいるってことは本物がどこかにいるはずだろう。本物のエリカはどこにいる?
エリカ:さっきの男。当馬が攫ったの。本物のエリカは当麻の研究所にいるよ。
憐:それはどこだ! 早く助けないとっ!
エリカ:っ!? え、でも私は本物のエリカと全く同じだから大丈夫だよ。
憐:そういう問題じゃない! 本物もクローンもどちらもエリカだ。俺はどちらも助けたい!
エリカ:で、でも助けに行ったら楽しみにしていたレストランに行けなくなっちゃうよ……。
憐:俺はエリカを助ける。知ってるんだろ、案内してくれ。
エリカ:なんで?どうして私じゃダメなの?あの人となにもかわらないよ。君のことだってあの人と同じように知っているし、君との思い出だってあの人と同じように持っている。どうして私じゃだめなの?
憐:ごめんな、さっきも言ったけど、俺にとってエリカに本物も偽物もないんだ。どちらも大切なエリカなんだよ。我儘かもしれないけど、俺は二人を大切にしたい。二人を助けたいんだ。だから、頼む! 案内してくれ!
エリカ:そっか、ありがとう。
エリカは憐の手を引いて研究所へと向かう。
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