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元ぽちゃ王子×世話焼き侍女 おまけ
※アルベル視点
この国の第一王子アルベル。
18歳の誕生日な夜、彼の寝室で声を潜めるように行われる秘め事。
「ユリーナ…ん、可愛い、好き…」
「っる、べる様、や、だめです、ぁめ…」
「ユリーナ…っ!」
ーーー…。
数刻前、想いを通じ合せた二人だったのだが、その後すぐに問題が起こった。
それはもちろん、ユリーナが飲んでしまったシロップ。いわば媚薬の存在。
アルベルはユリーナの気持ちはこちらに向いてないと思い込んでおり、であれば既成事実を作るという考えに至り、でもユリーナを痛がらせたくはないと媚薬を用意したのだった。
まさか両思いだとはつゆにも思っていなかったアルベルはいたく困惑し、後悔した。
「すまない、ユリーナ、あぁもう、どうしよう…」
頭を抱えてしまったアルベルに、熱に侵されつつも大丈夫ですよ、と答えるユリーナ。
赤く染まった頰と少し荒くなった息遣い。おまけにバレないようにとでも考えているのか、わずかにすり合わせる脚。自分のせいでこの事態になってしまっていることはアルベルも重々承知し、後悔もしているのだが、それとは別に己の欲もある。
(うぅ、か、可愛い…すごく、可愛い。普段だって可愛いけれどこんなに熱っぽいユリーナは初めて見た…)
既成事実を作り上げようとしていた自分が何を思っているんだと、頭では叱咤するが心にはなかなか響いてくれない。
「あ、アルベル様…」
「はっ。ごめ、ユリーナ、えと」
「もう…落ち着いてください、きっとその内、治ります…から」
ふぅ…と息をつき、体をきゅっと縮こめるユリーナに、アルベルの心もついでにさっき冷えたばかりのはずの頭も沸騰寸前だった。
(可愛いけど、何だか、ものすごくいけないものを見ている感じというか…妖艶にも近いような…)
アルベルとユリーナは年齢が一回り違う。
今までは侍女、それも姉に近いような感覚でいたものの、想いを通じ合わせた今では見る目も変わってしまう。
姉だった人が急に女性に慣れずしかも年上の。
幼少期の出来事から女性慣れせずにいたアルベルにはユリーナ放つ色香の刺激が強かった。
女性に慣れないとは言っても一刻の王子。諸国の姫君や自国の御令嬢と何度も顔を合わせたりしているが、今回は訳が違いすぎたのだ。
「ゆ、ユリーナ、苦しい…?水を持ってこようか、タオルは、何か何かいるか…??」
とはいえ自分がしでかした早とちりと過ちの結果であることは忘れていない。
何とか彼女の気を楽にできるものをと思案して声をかける。
ユリーナはそんないっぱいいっぱいなアルベルに微笑み、心配させないように「大丈夫、大丈夫です」と答えるのみだった。
アルベルはというと、その大丈夫が本当に大丈夫ではないことを分かっているから余計に焦ってしまう。
せめて汗を拭いてあげなければ、とタオルを持って来てユリーナの額を優しく拭う。
ありがとうございます。と笑うユリーナに胸が締め付けられる。
彼女はどうしてこんなに優しいのだろうと、どうしてこんなに尽くして、愛してくれるのかと思わずにはいられなかった。
「ユリーナ、ごめんなさい…」
「アルベル様…。」
自分はいかに愚かなことをしようとしたかを改めて実感した。
ユリーナが本心を隠してやめてくれと言った理由も、1番にアルベルの身の上を考えた上でのことというのもわかっていた。
(なのに僕は……)
次第に重くなる気持ちにユリーナを見れなくなると、なにかを察したのかアルベルの手に触れるユリーナ。
「アルベル様、私は大丈夫です。」
「…でも」
「過ちは誰にでもございます。それがどれだけ偉い人であっても、あるものです。ですからどうかお気を病まないでください。」
ふう、ふう、と荒くなる呼吸の合間に紡がれた言葉はアルベルをひどく安心させる。
ああやはり、この人しかいないと改めて考えさせられた。
改めて汗を拭うことに徹しようと、ユリーナの首筋に伝った滴を拭おうとタオルを触れさせた時。
「っあ!…んん」
ビクッと大きく体を震わせ声を上げたユリーナに、アルベルは思わず手を止めた。
薬で敏感になった首筋に走った刺激は、例えタオルで汗を拭こうとしたという行為にも鋭く反応してしまう。
ユリーナは自身のその異変に気付き、すぐにアルベルの手を取った。
「だ、め…ですアルベル様、汗は、大丈夫ですから…触れてはいけません…」
潤む瞳に見つめられたアルベルは自制せねばという気持ちの中に疼いた欲が駆り立てられる。
(可愛い、いや、ダメだなし崩しすぎる、でも…あぁ、ユリーナ…)
アルベルは脳が揺れる気がした。
すごく可愛いユリーナを大事にしたい反面、いつも厳しくも優しい彼女が不慮のこととはいえ自分のベッドで打ち震えている。
体に熱が籠り出し、タオルを握る手も震える。
(可愛い、可愛いユリーナ、触りたい…嫌いにならないでほしい、ユリーナ…)
もう、我慢できない。
アルベルはそっとユリーナの手を取って、彼女の顔の横に拘束するかのように抑えつけた。
「ゆ、りーな、」
「…?アルベル様…?」
「ユリーナ、ごめん、ごめんね、後でいっぱい叱って」
「え?な、ん、んんっ…」
煮え立った脳はもう機能しておらず、ただ愛しい人の唇を奪うことにだけ体が動いた。
アルベルのこの行為、自身もユリーナも戸惑っていたがこれはアルベルの誤算だった。
ユリーナが口に含んだ薬の成分を、彼女の口内を貪った時に微量ではあれどアルベルも口にしてしまっていた。
ユリーナほど身体に支障をきたす量ではなかったものの、欲を掻き立てて考える力を弱めるには事足りるものだったのだ。
そんな事をユリーナはもちろん、アルベル自身気付くはずもなかった。
「ん、んん…ぁう、べるさま」
「はぁ、ユリーナ、ユリーナ…ん」
「むぅ…だ、めです…だめ……」
だめだと言われれば言われるほど掻き立てられる欲。
(食べたい、貪りたい、彼女の心が手に入ったのは分かっているのにまだ足りない…)
口づけは次第に捕食行為のように変わっていく。
こじ開けた唇から口内を貪り、口を離して今度は耳、耳の裏、首筋へと、唇で食みながらも舌で触れる。
ユリーナはその刺激に体は力が入らず、言葉で抵抗するのみだった。
「だめ、だめですアルベルさま、お気を…どうか、アルベルさまぁ…っ」
「ユリーナ、ごめん、止まらない。君のことが食べたくて食べたくて、ごめんね、後でいっぱい怒られるから、今は」
許して。
そう呟き、少し、伺う瞳でユリーナと視線を合わせる。
食べたい、触れたいという気持ちと怖い、嫌われたくないという不安も相まってアルベルの心は乱れていた。
アルベルと目を合わせたユリーナは一瞬困った顔をして、でもすぐに微笑んだ。
「お優しいのですね、アルベル様」
「優しくなどないよ、こうして君を襲っている」
「ふふ、そうかもしれませんね…」
(あ…可愛い)
優しく微笑むユリーナにどくどくと心臓が早くなる。
首筋から鎖骨を味わっていた唇を離して、ユリーナの顔を覗き込む。
「ユリーナ」
「はい、アルベル様」
「婚前どころか婚約も、プロポーズすらろくにできてないけど……」
「ええ。アルベル様、アルベル様のお心のままにいたして下さい。」
ユリーナはどこまでも天使だ。
そう確信すらしたアルベルはうん、と頷いて今度は優しく、そっと口づけを交わした。
「うんと優しくする」
「そうしてください…あの、初めてなので……」
「え」
真っ赤に染めた顔で、恥ずかしそうに目を逸らしたユリーナにアルベルは頭の何か、大切なものを繋ぎ止める紐がぷつん。と切れた気がした。
人当たりのいいユリーナは屋敷内はもちろん場内、守衛、馬番に至るまで老若男女問わず信頼されていた。
アルベルはそんな彼女を見てきっとそういった経験はあったのではと勝手に思っていた。
当のユリーナはアルベルのことで頭がいっぱいで、誰かからアプローチされてもそれをアプローチと気付かずに見事にスルーしていたという。
「…がんばるけど、殴ってもいいからね」
「へ…??」
かくして二人の長い夜は更けていった。
翌日はもちろんひとしきりユリーナから怒られたアルベルだったが、どうしても緩む頬は抑えきれず、もう!とそっぽ向いたユリーナに再びちょっかいを仕掛けるのだった。
(終)
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