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ちょっとしたエピローグ
「アゼスト陛下」
「ん。今行く」
あれからいく年月が経ち、第一王子異例の結婚や第二王子の王位継承がもうこの国に浸透しきった頃。
父から受け継いだ国を今日も背負い、政に精を出すアゼストの元に兄アルベルからの知らせが届いたのは数日前のことだった。
『敬愛なる弟殿
そちらはもう暖かくなった頃だろうか。今私のいるベルナンド領地はまだ冷え込む時期が続いているが、妻も子も元気だ。勿論私も。
さて、この領地も体制が整ってきたところで、一度王都に戻ろうと思う。近い内にまた便りを送るから、是非とも時間を作ってほしい。ではまた。 アルベル』
筆不精な兄にしては頑張ったのだろう。と手紙を見たときに少し笑ってしまったなと思い返すアゼスト。
その手紙の内容通り、少ししていつ頃に王都に着くかが記された便りが送られてきた。
現国王アゼストの兄、アルベル。
長い片想いを少し拗らせつつも実らせた彼は今は各領地を妻子とともに転々としながら国を外側から支えている。
あの日、兄の我が儘を聞いた日をアゼストは思い出す。
アルベルは王位を継がずに、それでも国のためにできるという考えをアゼストに話した。
『私が知っているのは我が国の中央から近しいところだけだ。しかし国は広い。外側に近い領地は未だ手付かずであったり、立て直しができていないどころか目処も立っていない。』
王都から円状に広がる領地は、王都に近ければ近いほど豊かで、情報も入ってくる。逆に遠ければ遠いほど豊かとは言い切れず、情報の入りも遅い。
一度崩れた領地は立て直さなければならないが、情報の入りが遅い分手を尽くし切れていないのだった。
『だから、私はその外側を支えるんだ。』
出来るだけ外側で、整えられていない領地を周り、時には滞在して建て直しを図るという。後任を育成し、見通しが立ったら次の領地へと回っていくことで外側から内側を支えるという話だった。
アゼストはそれを聞いて、そしてその想いを描いた兄を見て、王位継承を心に決めた。
『アゼスト、お前は内側から国を支えて作っていくんだ。私は外側からそれを支えて見せよう。』
言い切った兄の爽やかで、どこか誇らしげな表情は数年経った今も忘れたことがない。
(なんというか、本当、すごい兄だな。)
アゼストは普段緩むことのない頰を緩めながらも、王の間への道を歩いた。
そう、今日がその王都に戻る日であった。
(さて…アリアはどう成長したかな)
生まれたての頃一度だけ抱いた兄夫婦の愛娘を思い出す。
初めて腕に抱いた重みはすぐ潰れてしまいそうで恐ろしく、でも愛おしさに溢れていたのをよく覚えている。
「もう、お見えになっていますよ」
「ん。意外と早かったな」
「早く陛下にお会いしたかったのでは?」
「…恥ずかしいことを言うな」
失礼しました。と心にもなく平謝りする臣下の開けた扉の先。
少しだけ老け込み、色が増したアルベルと、昔から変わらない愛らしさをもつユリーナ。そしてそんな2人の愛娘…それももう自身の足でしっかりと歩いているアリアを見て、アゼストはそっと微笑むのであった。
おしまい。
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