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言葉の意味が理解できなくて私は首を傾げた。すると章吾さんは「ふっ」と笑った。
「俺は……奏美と二人で話がしたいんだ。君は中に戻りなさい」
章吾さんは私の目を見て「奏美」と名を呼ぶ。その目を初めて怖いと思った。
この人のペースに乗せられたら私はダメになる。だから章吾さんの視線から逃げるように涼平くんの背中に隠れた。
涼平くんの手が後ろに回り、私の手を掴んで握る。
「部長……中に戻ってください……」
私は静かに言葉を放った。
これで章吾さんとの関係を完全に切って上司と部下に戻る。
その思いを察してほしかった。
涼平くんの背中に隠れているから章吾さんがどんな顔をしたかは分からない。けれど章吾さんは何も言わず、すんなり私たちの横を抜けて店の中に戻って行った。
「奏美さん」
涼平くんは振り返って私の顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?」
私を見るその顔は笑顔だけれどどこか不安そうで、私を心配しているような、自分がここに居てもいいのだろうかと戸惑っているようにさえ思う。
だから私はもう一度「ありがとう」と伝える。
「彼氏面してすみませんでした」
困った顔をする涼平くんにもう一度首を左右に振る。謝罪される筋合いはない。私は否定も肯定もすることができない。
「好きになってもらえるまで触れるつもりもなかったのに……」
涼平くんは顔を伏せて後悔しているようにも見える。それほどに私は涼平くんを振り回しているのだと罪悪感が湧く。
「涼平くんは大丈夫? 章吾さんにあんな態度とったら仕事に影響が出るんじゃ……」
「大丈夫ですよ。部長に俺の邪魔はできませんよ。だって俺は政樹さんのお気に入りですから」
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