きみが奪われてしまう前に

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「早く帰れ帰れ!」 「はいはい」 笑う政樹を正面玄関の方まで追いやって宴会場に戻った。 緑化管理部の社員が多く座るテーブルで涼平くんを見つけた。その横にはまだ加藤さんがぴったりとくっつき、可愛らしく笑っている。 無理でしょこれ……。 政樹が気を利かせて個室の鍵を涼平くんに預けたとしても、今夜の加藤さんは中々離れないだろうなと思えた。 寝る前にもう一度大浴場に寄った帰り、人気のないロビーで加藤さんとその同期の女の子が座っているのを見かけた。 「え? 桃花それ本気?」 「本気で。今夜は絶好のチャンスだもん。次長が私の前で部屋の鍵を預けたのってそういう巡り合わせなんだって」 さっきの政樹が言っていた部屋のことだと思い、悪いとは思いつつも壁に隠れて聞き耳を立ててしまう。 「さっき卓球やってるの見かけたから、連れてきて」 「でも……」 「私が酔って具合が悪いって言えば涼平くんは部屋まで運ぼうとしてくれるよ。あとはうまく次長が取ってくれた個人部屋に促すから」 加藤さんの計画に開いた口が塞がらない。 きっと政樹は部屋の鍵を加藤さんが見ている前で涼平くんに渡したのだ。だから加藤さんはその部屋を利用して涼平くんを誘おうとしている。 不快感がじわじわと湧き上がる。 「本田くんはそんなことしないよ……」 同期の子の言葉に加藤さんは「涼平くん相当飲んでたもん。判断力が鈍ってれば、私は落とせるから」と言い放つ。 「既成事実ってやつ。涼平くん優しいから、酔いが覚めて私に手を出したと知れば責任取って付き合ってくれるよ」 加藤さんの本性がはっきりした。同僚が悪口を言っても聞き流してきたけれど、私もついに加藤さんを不快に思う。
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