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奇妙な条件
男は、指定された館へと足を運んだ。
大金が手に入れば、今後一生遊んで暮らせるようになるし、一年間を指定された館で生活するというのも高いハードルとは思えなかった。
その指定された館というのは、死ぬまで祖父が生活していた場所らしい。
まさか、自分が生活している館に変な仕掛けや曰くなどないだろう。
なにより、祖父が死ぬ前に生前分与として男の口座に振り込んでいた金額が男を後押しした。
1千万円。
ふいに沸いた大金で味わった贅沢の味は、男を虜にした。
遺産さえ手に入れば、これと同じ、いや、これ以上の贅沢を一生続けることができるのだ。
男は意気揚々と館へと向かった。
館はなんてことのない住宅街に普通の家と同じように建っていた。
発明家の館なんていうから、てっきり人里離れた森の中などを想像していたが、ショッピングモールも近くにあるし駅からも近い。
生活するにも遊びに行くにも困ることのないような好立地だった。
「ここなら、一年間と言わず十年だって住んでられそうだな」
そんなことを考えながら男は、館の扉を開けた。
「いらっしゃいませ。相続人様」
「え、う、うわ。誰だ」
「私は、ご主人様。つまりは、相続人様のおじいさまに作られた生活補助用のアンドロイドでございます」
「アンドロイド?本当に?市販の物より全然人間っぽい。
それに、綺麗だ」
「ありがとうございます」
お辞儀をした女性型アンドロイドの胸が、弾力をもってぼよんと跳ねた。
男は、このアンドロイドにダッチワイフとしての機能があるかと考えたが、そういう機能があれば祖父も使っているだろうことに思い至り、頭を振った。
祖父と穴兄弟になるのは避けたかった。
「それでは、屋敷を案内させていただきます」
だが、その決意もどれだけ持つのか。
前を歩くアンドロイドの大ぶりなヒップを眺めながら、男はこれからの一年間の生活に初めて心配を覚えた。
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