ありがとう

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ある下校中だった お婆さんが大きな荷物を持っていて 大変そうに汗を流して歩いてた それを見た私は迷った 助けたかったけど怖かった 手伝いたかった 手を貸したかった でも でも 「そんな年じゃない」って怒られたらどうしよう 大事なものが入っていて 私が運んでいる途中に壊れたらどうしよう 私は上手く人と話せないから 「持ちましょうか」っていう時つっかえるかも 愛想がないから 嫌な思いをさせるかも 怒鳴られたらどうしよう 嫌がられたらどうしよう 私は迷った 怖かった 私はお婆さんを泣きそうな目で見ていた ……泣きそうな目で  その時私は初めて 自分が誰かを 誰かの顔を 見ているということに気づいた 今までうつむいていた自分が 誰かを見ているということに気づいた ずっと下を向いていても 誰かの顔を見られるんだって 他の人達が「当たり前」だと笑うことに初めて気づいた また少し迷ったけど 思い切ってそばに寄った だって私は 誰かの顔を見られたんだから うつむいてなくたってきっと大丈夫 荷物を持ってあげた お婆さんに「もういいよ」と言われたところまで運ぶと お婆さんは「ありがとう」と言った。 歯の少ない口を優しく緩めて 穏やかで平和な目を嬉しそうに細めて お婆さんは「ありがとう」と言った。
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