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眼前の空はどこまでも蒼く蒼く続いていた……いつしか私は思っていた、こいつ……俺と一緒に空の果てまで駆けるつもりか……と。
私は数時間の追いかけっこの最中、追ってくる操縦士に何故か奇妙な親近感を覚えていた。
きっと、こいつは空が好きなんだな……俺と同じに……。
敵機はそれでも等間隔を取って追随してきた。
やはりそうなのだ、こいつの目的は私の撃墜ではないのだ、俺と同じ世界を観たいのだ……。
私は思った。この広い空の果てには何があるのか……。
潜水艦との合流はもはや頭の隅に追いやられていた。私は、私は……行きつくところまで行ってみたくなったのだ……。
蒼い蒼い空と紺碧の海、私の目にはそれしか映らなかった。後方も敵機の機体がくいっと上がった……敵も増槽を捨てたらしい、軽くなった敵機は私との距離を縮めてくる。
来るなら来い、一〇〇司偵の実力はこんなものでは無い、お前なんか引き離してこの空の果てまで私は行くのだ……。
私はフット・バーを思い切り踏んで速度を加速させた。
流れる様な蒼い空……後方の敵機はみるみる小さくなっていく……。
燃料計を見ると残燃料が半分を切っていた。ああ、これでは収容海域に達せないかもな……私はそう思いながらも機をそのまま滑らせた。
後方を見やると先ほどの敵機はまだ付いてきていた。やるなあ……もはや布哇から1,500kmは過ぎた。
私は良いが、お前……帰れるのか?そうか……やはりお前は私と同じで空の果てが見たいのか……。
私は機をやや北へ向けた、潜水艦との合流海域を敵に悟られるわけにはいかない。
機はひたすらに蒼く果て無い空の彼方へ向けて飛んだ……燃料計が4分の1を切ってもまだ敵機は付いてきていた。
ああ、アメさんは操縦士の救助は万難を排してもやるって言ってたな……貴様は信じているのか?自分の祖国を。
まあいい、俺はまっすぐに飛ぶだけだ。水筒を持ち上げると残りは僅かだった、私は水筒の中身を飲み干して真っすぐに前を見た。
雲一つない……空はただただ蒼い……。私は魅入られる様に彼方へと向かって飛んだ。
燃料計が最後の目盛りを指した時、敵機がふらふらと揺れ……やがて頭をもたげ海面へとゆっくりと落下していった、白い花がその後にゆらゆらと舞った。
悪いな、あの空の果てまで行くのは俺だけだ。私は機首を合流海域の方向に向けた。
その瞬間ぱあっと虹が私の目の前に広がった、下は雨だったのだろうか?眼下で所々に浮かぶ雲を見て私は思った。
よし、多分あそこが空の果てだ……私は微笑んで舵を虹の方向に向けた。
燃料は残り少ない……潜水艦との合流は不可能だ……ならば、私は……空の彼方を見て見たいのだ……。
私は大きくアーチを描く虹に向かって機を走らせた……。私の目には大きくまるで長距離走のゴールにあるテープの様に私を誘う虹だけが映っていた……。
ー 終 ―
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