硝子の宝箱

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「キレイなものが好きなの」  見上げるほど大きな水槽を眺めながら彼女は言った。  キレイなものが好きだという彼女自身も、精巧に作られた人形のように美しい。流れるような黒髪は腰の下まであり、少しぽってりとした形の良い唇は紅を引いて鮮やかだ。長いまつげに縁取られた瞳は大きく、タレ目がちなところも愛らしい。ふんだんに布を使った単品で目を引く凝ったドレスも、彼女を引き立てるアイテムに過ぎなかった。  水槽の中には色とりどりの魚が泳ぎ、光の当たった水泡がその都度輝く。揺らめく波の光が、照明の落とされた空間に佇む彼女の顔を照らし歪めた。 「キレイなものが好き」  そう告げた彼女は、きらめく水泡を硝子の球体に閉じ込めた。  彼女がキレイと言ったものは、すべて硝子の中に閉じ込められる。  僕の片目も、空が映ってキレイ、と言われ激痛を感じておさえたときには、すでに硝子に閉じ込められて彼女の手に乗っていた。目の前で溢れ出る鮮血など、彼女にはどうでもいいのだろう。手にした僕の目をうっとりと眺めていた。そんな彼女は誰よりもキレイだった。
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