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薄明りの中で目が覚めた。いつの間にベッドに移動したのか、見慣れた部屋の光景を覚醒しない頭で見つめる。
葵くんがいない。ベッドの反対側を見るも、そこにも姿はない。起き上がると、まどろみながらも頭がすっきりしているのが分かる。時計を見れば夜中の一時を過ぎていた。すっきりするはずだ。
ベッドから立ち上がってソファを覗き込んだ。予想通り、葵くんがそこで寝息を立てていた。どうしてこんなところで寝ているんだろう。いつもなら無遠慮に隣で寝たがるのに。
気持ちよさそうな寝顔を見ていると、起こすのが躊躇われる。こんな時間に起きたら寝付けなくなってしまうかもしれないし、このまま寝かせてあげよう。
ベッドから薄手の掛け布団を移動させ、そっと掛けた。綺麗な寝顔をじっと見つめ、充分に堪能してから静かに離れる。
キッチンに行くと、ガス台の上に小鍋が置きっぱなしになっていた。蓋が少しずらして置かれている。葵くんが何やら料理をしていたようだけれど、結局何を作っていたのだろう。おそるおそる蓋を開けてみれば、その正体は雑炊だった。
少し意外で、虚を突かれた。誕生日のお祝いで最初から雑炊を作ろうとしていたとは考えにくいから、急遽思い立ったのだと思う。
私が食欲無さそうなのを見て、彼なりに考えたのかもしれない。そう思ったら心臓がきゅうと締め付けられた。だって、雑炊なんて絶対に作ったことがないはずだから。
火に掛けて温め直し、器に入れてリビングへ移動する。電気を明るくすると起こしてしまうかもしれないから、薄明りの中でテーブルについた。スプーンで掬って頬張れば、暖かさがじんわりと口の中に広がる。
ちょっと味が薄いかもしれない。でも、美味しい。ちゃんと出汁の味がするし、卵も溶いてるし、何より、私の為に作ってくれたのがたまらなく嬉しい。
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